前回はイタリア球界において7点差がセーフティーリードではないことを述べたが、今回は(点差の話ではないが)他の国のシュールな野球事情にもついても見ていきたい。
個人的にも調べて驚いた野球事情といえばお隣韓国の野球である。
近くて遠い国と呼ばれる韓国だが、それはスポーツでも例外はない。今、日本のJリーグは(鶏卵ではないが)値段が安くて安定したクオリティーが計算できる韓国人選手抜きではリーグ運営は不可能になった。
野球も第2回WBC決勝での日韓戦で韓国球界最高のストッパーであったイム・チャンヨンからイチローが決勝タイムリーを打つなど様々な歴史を紡いだのは記憶に新しい。
様々なスポーツである時はチームの勝利には必要不可欠な仲間として、またある時は雌雄を決する永遠のライバルとして、無視できない国。それが韓国である。
そんな韓国のスポーツ界というのはどういった環境なのかといえば、意外とわからない。
韓国のスポーツ環境というのは(勉強や芸能もそうだが)、一言で言うと「少数エリート主義」だ。
それは何だと言えば、韓国のアマチュアスポーツというのは昔は「四強制度(サーガンチェド)」と言い、当時は小学校から全国大会ベスト4に入らないと競技者生活を強制引退させる残酷なシステムが存在した。
現在は緩和されたというが、そうした中でも小学校→中学校→高校と進学するにつけて選手は「ふるい」にかけられ、若いスポーツ選手が競技を続けるには、子供の頃から勝利にこだわるしかなく、そのためアマチュアでも試合の勝敗というのが、大会に負けてもスカウトに見出されてプロ入り可能な日本のそれよりはるかに強い執着心のある、異常なまでの勝利至上主義になっていった。
実は韓国の高校野球の話だが、韓国の高校球児が9回2アウト2ストライクで最後の球がストライクと言う判定に抗議しているのだ。
高校球児が審判に抗議(⁉︎)。日本では考えられない風景だ。
しかしこうした光景があるのは、韓国球界で野球し続けるには結果にこだわるしか道はなく、高校で野球をドロップアウトさせられたら、今まで全くやってこなかった受験勉強で勝負するしかなく、まともな人生を歩むためには結果を出すしか将来はない世界なのだ。
こうした社会的システムは必然的な歪みをおこし、韓国サッカーでの八百長問題にまで発展した。
脱線した話を野球に戻そう。こうした韓国の少数エリート主義の流れから日本には4500校ある高校野球部も、韓国だと50校程度しかない。日本の人口が1億2000万人に対して韓国は4900万人だから、韓国球界の高校球児がそれだけ特権的な野球エリートというのがわかる。
前回はイタリア球界の7点差はセーフティーではないことについて、今回は韓国の高校球児は審判に抗議するということを紹介したが、野球という枠だけ見ても自分たち日本人の常識は海外だと通用しないことがわかった。世界は広いのである。
参考文献 コリアンスポーツ〈克日〉戦争 大島裕史 新潮社 2008年
追伸 アメリカの高校野球では球数制限や脳震盪(のうしんとう)の危険さへの啓蒙活動がある一方、乱闘寸前の揉み合いもある。世界の野球は未知数だ。