ここまでブログタイトルには「東洋SL級王座決定戦」と銘打ちながら、その試合のことを書かなかったが、今回はようやくそのことを書きます。
もともとスーパーライト級(SL級)と言うのは140パウンド(63.5キロ)で普通の体格かと思われるが、身長178cmで普段の体重75キロくらいの人が体重を削って試合に出場するので、日本を含めた東洋太平洋圏内では十分「重量級」なカテゴリーなのだ。
そんなSL級タイトルマッチ。前王者が世界挑戦ので為に返上。決定戦に出場するのは、同タイトル3度目の挑戦となる3位の岩渕真也(草加有沢)とフィリピン人で22歳の4位アル・リベラだった。リベラは前戦フィリピン国内で21勝全勝のホープに2RKO勝ちし、この試合まで4連続KO勝ちと勢いに乗っていた。
岩渕は26勝22KO6敗1分。リベラは14勝12KO2敗とお互い高いKO率で、この試合は最終ラウンドのゴングは必要ないと予想されていた。
そうした中でゴング。両者共サウスポーだった。
野球でもそうだが、左vs左と言うのは選手に経験値が少ないので、試合中に選手が戸惑うこともある。したがってボクシングでもレベルが低いと凡戦になることもままある。
しかし、この日のリベラはぎこちないながらもしっかり基本の出来た右リードを打ち込んで、右ジャブの差し合いで有利に立ち正確な左クロスを再三ぶち込む、世界でも希少価値の高い狙撃手のような「左のクロッサー」だった。
この左がフィリピン人らしく腕がしなやかに伸びるし、しなる。まるで鞭(ムチ)のようだ。
いきなりピンチになった岩渕が強引に懐に入ろうとすると、肘(ひじ)を器用に折りたたんだ左右のカミソリアッパーが火を噴いて、鼻血を出す岩渕の顎(あご)が跳ね上がる。4Rにはリベラはその左クロスから一気に2度のダウンを奪った。
4Rの公開採点で早くも5~6ポイント差がついて、序盤戦ですでに後楽園ホールのリングはリベラの独壇場と化し、最早「どちらが勝つか?」ではなく「リベラが何ラウンドで仕留めるか?」と観客の興味は変わった。
リベラは重量級スパーリングパートナーの少ないフィリピン国内でもしっかりスパーを積んだらしく、チョッピング(打ち下ろし)の左も無慈悲にズバズバと岩渕の顔面を切り裂いた。
ここまで一方的な公開処刑になっていたが、7Rにリベラの左クロスが連打で入ると福地主審が割って入って岩渕を救出。この試合はリベラの圧勝だった。
この試合を見ていてある意味ミスマッチだった。しかし、これからの東洋のボクシングシーンを見ると、いかに「フィリピン人と言う壁」を克服するか?と言うのが重要なのかが分かった。壁と言うモノは、高ければ高いほど超えた時気持ちいいモノなのだから。
