2000年代中頃、日本のボクシング界をあるニュースが賑わせた。15連続オール1RKOのベネズエラ人エドウィン・バレロというボクサーがいる。こいつは本物か?偽物か?それを知る機会ができた。それは衝撃的なニュースだった。

2005年9月25日の横浜アリーナでの世界戦の前座にバレロを出場させる。主催者は対戦相手を公募する。そこでの破格の条件が「1R終了まで生き延びたらそれだけでファイトマネーとは別に賞金100万円(!)。バレロに勝ったらそれにプラス100万円(‼︎)」というモノだった。

ボクシング界にはこうした賞金マッチというのはよくあるが、これは衝撃的だった。拳2つで金を稼ぐボクサーという生業で、これほどのチャンスもない。しかし、対戦相手に立候補する勇気あるボクサーはなかなか名乗り出さなかった。

試合が流れるかも…、という最中にようやく立候補者が現れた。男はフォーラムスポーツジムの阪東ヒーロー。この時点で阪東は漢(おとこ)の中の漢だった。

並の精神力では押し潰されるような中での賞金マッチ。阪東としては逃げまくって100万円を稼ぐ選択肢もあった。しかし阪東はそれをしなかった。

試合開始のゴングと同時に仕掛けるバレロ。阪東はそんな殺気がかった壊し屋に向かって玉砕覚悟の真っ向勝負!

日常生活ではまず聞けないような鈍い破壊音が飛び交う中で、1R1分過ぎにバレロがいきなり壮絶なダウンを奪う。

しかし阪東も立ち上がる。ここで本来ならダウンしたボクサーというのは足を使って逃げるのがセオリー。それは卑怯でも何でもない。

だが、そこでも阪東は周囲の制止を振り切ってもう一度真っ向勝負。そこでバレロは左強打を決めて、阪東は糸の切れた操り人形のようにバッタリ倒れてノーカウントで試合終了。

結果は予想通り、バレロの1RKO勝ちだったが筆者としては勝ったバレロよりボクサーとしての本質を見せつけた阪東の漢気の方がインパクトが強かった。

昔、柔道の全日本選手権(無差別級)で70kgの古賀稔彦が100kg超の小川直也にガチの勝負をしにいって玉砕し、本気の悔し涙を流したことがあったが、この日の阪東も(体格は同じだが)圧倒的な実力差のバレロに対して真っ向勝負で撃沈したが、ダウンしリングに横たわりながらうっすらと涙を流した姿というのは古賀のそれに共通する漢気を感じた。