①では力士の給料から見たアスリートの格差社会について述べたが、今回伝えたい小結と平幕の絶対的な格差の違いは実はまだ述べていない。

1場所だけしか小結を経験していない元・小結と平幕との差とはどこに出るのか?

それは引退後の年寄名跡についてである。

昨今アスリートの引退後のセカンドキャリアについて色々言われているが、角界の場合は引退後に年寄名跡を得て親方として相撲の世界に残れるか、それを得られずに一般社会で働くかで、関取(十両以上)の引退後のキャリアデザインに雲泥の差が出る。

自分が経験した勝手を知る相撲の世界に残るには、相撲部屋の親方の資格(年寄名跡)が必要だが、これは関取なら誰でも貰えるモノではない。

有資格者としては「平幕在位20場所以上」「平幕と十枚目(十両)の在位を合わせて30場所以上」「三役(小結・関脇・大関)より上の地位を1場所以上」経験した力士に年寄名跡を与えられる。

分かりやすく言えば、平幕だけなら20場所(3年以上)在位しないと貰えない年寄名跡も、1場所(1か月)だけ小結を経験すれば年寄名跡の資格を得られるのである。

今簡単に言ったが、平幕という地位も力士のなかではステータスは高く、その分そうした地位を維持するのは想像以上に困難なのである。

しかし、たった1回だけでも小結になれば、親方の有資格者になるのだ。一般企業で普通の人と同じ給料で(しかも周りより遅いスタートで)社会の荒波に揉まれるのと、自分がよく知る相撲の親方として若い力士を指導しながら、最低でも月給761000円の収入(常任年寄)で生活するのでは、どちらが幸せか言わずもがなだ。

関取と養成員との格差社会もそうだが、平幕と三役経験者との絶対的な溝というモノも深く険しい世界なのだ。

参考文献  あの野球選手とゴルフ選手はどちらが儲かるのか?  松尾里央  TAC出版  2010年

大相撲のマネジメント その実力と課題  武藤泰明  東洋経済新報社  2012年