こうして今回は先日見た卓球天皇杯について書き連ねているが、卓球という競技について現役時代に世界選手権で12のタイトルを獲得し、引退後に日本人として唯一ITTF(国際卓球連盟)のトップを務めた故・荻村伊智朗の伝記である「ピンポンさん」(城島充・講談社・2007年)に卓球の間合いについて興味深い記述がある。
《剣やボクシングでは遅い者が永遠に後退を続け、おのれを必要とする間合いをとり続けることが理屈では可能だが、卓球では不可能だ。剣では相手のいない空間をうっても意味はないが、卓球では意味がある》
《左右への球の広がりも相手に切りつけることになる以上、遅い者が後退し続けることは不利を増すのみだ。動作の速い者は、ネットからの距離を極力つめる工夫をなすべきだ》(共に原文ママ)
卓球と打撃系格闘技とは前述の通り、奪い合うスペースの形が違い、卓球のそれは他より横長な形状であるがゆえに、打撃系格闘技の極みである「後の先(相手より後のタイミングでパンチを打とうとして、先に自分の攻撃が決まること)」が、この競技では通用しないということがわかった。
また今回見た卓球の試合で感じたのは、スマッシュなどを派手な攻撃で一気に決めるというより、ボールを繋いで繋いで、相手の根気や集中力を削いでいって根負けさせるような、一種の「消耗戦」のような闘いが卓球には求められるのが、今回見た試合では感じた。
またテレビで見る卓球だとラリーが続いても単なるボールの移動にしか見えないが、生観戦するとボールも選手の肉体も想像以上に躍動していた。
あと興行上の観点から感じたのは、この試合は全席有料だったが、卓球関係者だけの内輪の大会に見えた。その前の月に同じ東京体育館で行われた柔道グランドスラムは、上の階は無料席で一般人や関東近郊の柔道部員で活気があった。この大会も無料席を設けて、関東の卓球部員たちにトップレベルの試合を生観戦させる機会があってもよかった。
しかし、それでも温泉の脱衣所の脇にある卓球台くらいしか縁のない筆者が、卓球のトップレベルの試合を見られたのは有意義な経験だった。
