①ではボクシングにおけるボクサーがいかにして(最終目標はチャンピオンベルトを自分の腰に巻くところだが)自分の夢をできるだけ長く見続けるようには何をすべきか?という方法論ついて述べてきた。しかしこれは何もボクシングという狭い特殊な世界だけのシステムではない。
また夢の寿命を「長寿」にするために、やってはいけないこともある。②では夢の寿命に対しての「毒」になる部分も見ていきたい。
夢の寿命に対して毒になること。それは「優し過ぎる」ことや相手に「同情」することである。
一見するとこの2つは人間が社会で生きていくために必要不可欠な要素に見えるが、勝負の世界で優しさを見せることはむしろある種の自殺行為になる。
昔のプロ野球漫画で全国的には無名の選手だったが、プロ入りし猛練習をしていた野手がいた。
しかしその選手は優し過ぎていて、ゲージのバッティング練習でも簡単に次に打ちたがっている後輩に譲りあいの精神で譲ってしまう選手だった。
その選手は練習後にコーチから説教された。「お前は甘いんだよ!プロなんだから優しくするよりも、もっとガツガツ前に行く気持ちを見せろっ!」と言われた。
しかし結局その選手は自分の優しさという弱点を克服できずに、ひっそりと戦力外を言い渡され自分の夢の寿命が尽き果ててしまった。
それとは別に、あるキックボクシングの漫画で、自分を変えようとした元ひきこもりの高校生が、アマチュアのキックの試合に出場するために日夜バイトと練習に明け暮れていた。
そうした主人公にジムのある主力選手の先輩が目を掛けて可愛がっていた。
その先輩はチャンピオンベルトに対する飽くなき執着心で練習していたが、後輩である主人公にアドバイスするためのスパー(実践練習)で自分がダウンを喫してしまった。先輩はベルトを懸けたタイトルマッチどころか並の試合すらできないくらい顎(アゴ)が馬鹿になってしまっていた。
主人公は面識のあったその先輩の奥さんに先輩を引退させるように説得を頼んだ。
…ところが…
奥さんは主人公の頬をひっぱたいた。
「キックボクシングの世界は何百人もいるキックボクサーの中から、たった一本しかないチャンピオンベルトを『あれは俺のモノだ』と思っている馬鹿がいる世界なのよ」
「そんな世界で(キックの世界に身を投じた)主人公は誰かに同情している場合じゃないのよ。同情なんかしていたらチャンピオンベルトという頂点には届かないわ!」
この話を読んでキックも筆者がやっていた普通のボクシングもルールが少し違うだけで、考えていることは同じだと思った。
脱線したかもしれないが、①で言ったボクシングの元東洋王者も今回のプロ野球選手も駆け出しのキックボクサーも、それぞれの夢の寿命を維持するためには対角線上のコーナーポストにいる相手やマウンド上の投手を倒して、相手の夢を喰って自分の夢の寿命を延命するという意味では同じである。
そうした世界で夢の寿命を維持するためにやってはいけないのは、対戦相手やライバルに対して優しさを見せることや同情をしてしまうことである。
一般社会で男が周囲の人間に優しさを見せるのは短所ではなくむしろ長所だが、スポーツの世界で自分の夢の寿命を維持するには、優しさや同情が毒になるのである。