前回は少し前の北米リングを飾った2人の名ボクサーのことを紹介したが、この2人は実は対戦経験がある。
1998年9月18日のラスベガスでWBCスーパーライト級(ジュニアウェルター級)タイトルを懸けて対戦した。
この時の2人の対戦を相撲に喩えるなら、(当時の)横綱千代の富士がまだ平幕だった貴花田(貴ノ花)の挑戦を受けた時に似ている。
そして結果も貴花田が千代の富士を倒して世代交代をさせた様に、当時まだ若さ溢れるデラホーヤがチャベスを倒して新時代を象徴したのも似ている。
そしてこの時のチャベスvsデラホーヤで印象深かったのは、90年代に象徴された「グローバル化」の到来だ。
チャベスもデラホーヤもルーツはメキシコである。
…しかし…
ルーツは同じでも北米に置ける彼らのそれぞれの立場は微妙に異なる。
チャベスの場合生まれも育ちも生粋のメキシコ人で、メキシコ国民からすると「メキシコの大統領の名前を知らないメキシコ人はいるが、チャベスの名前を知らないメキシコ人はいない」というくらい(一種の長嶋茂雄の様な)、ボクシングやスポーツという範疇を超えた自国民の象徴の様な存在である。
一方デラホーヤは両親はメキシコ系だが、幼い頃にアメリカに移住し、アメリカ国籍を取得。最初の出世となった1992年のバルセロナ五輪のライト級金メダルも「アメリカ代表」として獲った。
アメリカでは中南米からの移民を「ラティーノ(ヒスパニック系)」と総称し、その中でもメキシコ系は「チカーノ(女性はチカーナ)」と呼ぶ。
移民と言ってもアメリカ国内におけるマイノリティー集団としては巨大で、ラティーノは約5000万人、うちメキシコ系は2300万人もアメリカ国内で生活している(ちなみに日本における最大マイノリティー集団の華僑は約70万人)。
こうした北米での社会情勢の中で、チャベス(生粋のメキシコ人)vsデラホーヤ(アメリカ国内のチカーノ)という一種の民族的な対立の様な部分もあった。
そうした北米でのそれぞれのバックグラウンドを背景に両者は対戦し、結果デラホーヤが9回終了TKOでタイトルを獲得した。
こうして新旧2人のスーパースターの背景に見える複雑な社会情勢を見てきたが、スポーツという世界は単に選手(orチーム)が強い弱いという問題だけでなく、その国の社会情勢も見えてくる。こうした部分を見逃さないこともスポーツを多面的に捉える為には重要である。