サッカーの放映権料という実態のわからないモノに対して、どう値段を付けていくかという事が五里霧中な事を①で述べたが、②では具体的な値段の折衝の経緯について述べたい。
今回のサッカー放映権料バブルについては2002年のW杯日韓大会について見てみたい。
この大会で試合の放映権料の交渉が始まったのはフランスW杯大会後の1998年秋である。NHKと民放5局で構成されたJC(ジャパン・コンソーシアム)が2002年大会と2006年大会の放映権を落札したがあるドイツのメディアグループの)キルヒと(アディダスのダスラーが出資した会社の)ISLに対して日韓大会の日本での放映権をいくらで売ったくれるかという交渉のテーブルなついた。
キルヒ&ISLが提示した金額は当時の日本円で約540億円(‼︎‼︎)という天文学的な数字だった。
当然JC側は即座にテーブルを立ち、速攻で両者の交渉は決裂した。
JCが支払ったフランスW杯時の放映権料は5億5000万円だったが、この時のキルヒ&ISLがFIFAから落札した前述の2大会分の落札価格が約2300億円(‼︎‼︎‼︎)だったという事もあり、彼らは落札した分のモトを確保する為にJCへ法外な値段を吹っかけたのだ。
しかしJCもこんなふざけた値段は払えないが、さりとて交渉のテーブルにつかないと日韓W杯の試合を地元の日本で見られなくなる。長い空白時間があり、2度目の交渉がスタートしたのは1999年6月だった。
この時キルヒ&ISLは2002年大会のみの放映権料で250億円と歩み寄ったがJC側の相場は(前年獲得したシドニー五輪の放映権料が約162億円という事を勘案して)「数十億円から最高でも100億円」と腹づもりしていて、両者の値段にまだ開きがあった。
こうした一筋縄ではいかない交渉を更に複雑にする存在が出てきた。スカパーである。スカイパーフェクTV(スカパー)が有料衛星放送のシェア拡大の切り札としてW杯日韓大会の放映権を買い取り、それを国内の視聴者に有料で見せることによって、国内市場を一気に奪おうとした。
当初スカパーが買い取る事により日本戦が見られなくなる懸念もあったが、スカパーが日韓大会全64試合を、JCが日本戦など注目試合など40試合を双方で負担する事で各自の予算を軽減させ、スカパーはキルヒ&ISLに約120億円を支払い放映権を購入した。
話はここで「めでたしめでたし」とはならなかった。日韓大会の前年2001年春にISLが、2002年にはキルヒが高値でFIFAから買い取った放映権料が十分利益が回収出来ずにそれぞれ倒産の憂き目に遭った。
こうした顛末(てんまつ)を見ていて思ったが、狂乱の1980年代の土地神話と言い、2000年代初頭のIT長者と言い、2007年のアメリカのサブプライムローンから来た世界同時不況と言い、何かのきっかけで急騰した瞬間湯沸し器のようなバブルの熱気というのも、熱に湧いて(熱病に冒されて)いる時は気づかないが、熱が冷めると「あの熱狂は一体何だったんだ?」という事になる。
この時のサッカーの試合の放映権料というモノのバブルというのも、ITや土地&アメリカの住宅ローンと扱っている商品というのは違うが、バブルが起こる仕組みというそのものとしては同じである。
「全ての道はバブルに通じる」という本があったが、それは言い得て妙である。
参考文献 日韓ワールドカップの覚書 日本サッカーの未来のために 川端康生 講談社 2004年