〈①の続き〉産業革命後にヨーロッパにスポーツという概念が生まれ、サッカーという競技が人気が出るようになった。
ヨーロッパのみならず世界中がこの球技に夢中になるにつれて、賢い者はサッカースパイクという靴が莫大な利益を生み出す可能性があることに気がついた。
それが前述のアディダスだが、アディダスというメーカーは今でこそウェアや他のスポーツ用品も手広く作っているが、最初は靴工場からのスタートだった。
サッカースパイクの重要性にいち早く気づいたアディダスだが、このブランドを絶対的に確立したのはあるW杯の試合だった。
1954年のW杯スイス大会。当時のサッカー界の最強は「マジック・マジャール」と呼ばれていたハンガリーであった。
一方で昨年(2014年)優勝したドイツ(当時は西ドイツ)は第二次大戦に敗れ、経済力に乏しくサッカーもそれほど強くはなかった。
しかしそんな西ドイツもこの大会では組み合わせにも恵まれ決勝まで勝ち上がることができた。
対する相手は前述のハンガリー。ハンガリーはこの試合まで四年半国際試合で負け無しだった。
当然下馬評ではハンガリー有利。しかし天は西ドイツに味方した。
今でこそサッカーの試合では雨の日用のスタッド(スパイクの刃)を用意するのはアマチュアでも当たり前だが、この頃はなかった。
この決勝戦のスタジアム近辺は雨。ハンガリーの選手に雨用のスタッドの付いたスパイクは当然なかった。
しかし西ドイツにはアディダスが開発した雨用のスパイクがあった。
こうした状況というのは競馬のハンデ戦のようなモノで、ある意味西ドイツの方が有利に決まっていた。
こうしたピッチコンディションの下、西ドイツは実力で上回るハンガリーを雨用スタッドの付いたスパイクてグラウンド中を縦横無尽に駆け巡り、3ー2で優勝することが出来た。
そして表彰式の西ドイツ代表の選手の足下には、あの3本線の入ったスパイクが全世界のサッカーファンの前に写しだされ、アディダスというブランドが確立された瞬間でもあった。
スポーツビジネスの歴史というのはスポーツ用品の開発競争の歴史でもあるが、先駆的なニーズに応えられる企業というのはどういうジャンルでも強いのである。
参考文献 アディダスvsプーマ もうひとつの代理戦争 バーバラ・スミット著 ランダムハウス講談社 2006年