前回は箱根駅伝がただの冬場の陸上界のイベントから巨大なスポーツビジネスに変貌した経緯を述べたが、今回はツール・ド・フランスについて述べたい。

ツールは2013年に第100回を迎えたが、こちらが始まったのもメディア(新聞)の販売促進活動が原因だった。

1890年のある日。フランスのジャーナリスト、ピエール・ジファールは飼い犬の体調が悪かった。

獣医は「馬と一緒に犬を走らせなさい」と言ったが、ジファールは馬が嫌いだった。

そこでジファールは自転車で犬と一緒に走り、そこで自転車の魅力に目覚めた。

一方でジファールは本業のメディアは『フィガロ』という新聞でフランス国内の不正を糾弾した。そしてその後ジファールは1892年に『ル・ヴェロ』というフランス初の日刊スポーツ誌を創刊する。

この動きを面白くないと思ったフランスの実業家たちは1900年に『ロト』という新聞をバックアップすることにした。

この『ル・ヴェロ』vs『ロト』の当時のフランス国内で勃発した新聞戦争の両者の販促活動の目玉だったのが自転車レースだった。

この両誌が1902年にパリ~ボルトー間の自転車レースを行っていたが、お互い相手をスポーツイベントで出し抜きたいという強い願望はあった。

その後『ロト』の編集長アンリ・デグランジュが部下に何か大きなアイディアは無いか?とせっついた。

この時部下が冗談半分で「フランス一周を自転車レースでやってみましょう」と言った。

デグランジュは選手を殺す気か?と叱責したがよくよく話を聞いてみたら面白いアイディアだと感じた。

そこで『ロト』は1903年に初の自転車によるフランス一周レース「ツール・ド・フランス」が始まった。

このレースにより1904年『ル・ヴェロ』は廃刊となり、新聞販促戦争は終焉した。

しかしそれは世界に自転車ロードレースという新たな概念による戦いの火蓋が切って落とされた瞬間でもあった。

こうして箱根駅伝とツールの成り立ちを見てきた訳だが、洋の東西問わずスポーツのメガイベントというのはきっかけというのが些細なビジネスの販促活動というのは面白い。

白熱するスポーツの現場もこういう共通点があるというのは興味深いモノである。

参考文献  駅伝がマラソンをダメにした  生島淳  光文社新書  2005年

ツール・ド・フランス100話  ムスタファ・ケスス/クレアン・ラコンブ著  斎藤かぐみ訳  文庫クセジュ  2014年