<前編からの続き>さてさてそんな順風満帆のサーシャも意外な落とし穴が待っていた。

サーシャは試合が決まっていない時期に六本木で飲みにいった時、他の外国人客と口論になりその客を殴打したのだ。

軽量級でボクサーとしては非力なサーシャも一般人を殴ったら洒落にならない。勿論その男は顎を壊して警察沙汰になったのである。

世界まで目の前だったサーシャが自業自得とは言えタイトル挑戦の話は当然流れてしまった。その男とは示談が成立し被害届は出さなかったので傷害罪にはならなかったが、コミッションとしてもボクサー活動を謹慎させることになった(このくらいの処分で済んで良かった)。

その後謹慎も解けてボクサーとしての活動を復活させたサーシャだが、謹慎期間中にボクシング界の勢力地図が変わってしまった。

ジムとしても世界挑戦の交渉を一からやり直しになった上に、謹慎期間中に世界タイトルを獲得した王者とは交渉しづらくなった。

結局サーシャは自分を日本に呼んだ東京のジムを去り、沖縄のジムに移籍した。しかしこの沖縄のジムも選手を呼べず、結果的にサーシャはジムに詳しい行き先を告げず勝手にロシアに戻ってしまった。

そんな不義理をしたサーシャも罰が当たったのかもしれない。タイトルの勢力地図も変化しサーシャのいた階級では日本人が王者になった。

本来なら日本人の王者ならボクシングという狭い世界で話もつけやすいのだが、日本のジムで問題を起こしたトラブルメーカーという烙印をおされたサーシャと日本人王者の陣営は試合は組めないと敬遠された。

結局ボクサーとしてのピークを過ぎたサーシャはマイナータイトルを獲得しただけで引退してしまった。

ボクサーの才能というだけならサーシャはチャンスがあればまず世界王者になれる選手であった。しかしサーシャは自らの行いで世界挑戦のチャンスは最後までフイにしてしまった。

ボクサーは才能があれば世界王者になれると思うもしれないが、意外とそうでもないのである。