少し前の当時定期購読していたボクシング専門誌のコラムで、アメリカ在住の日本人ライターがテレビでスペイン語放送をつけていた時のCMであったが「野球はアメリカのスポーツ」と言う言葉の後に選手のユニフォームの背番号を映すシーンがあったが、その名前が「サンチェス」「ペレス」「ロドリゲス」「ゴンザレス」「ゴメス」とヒスパニックやラティーノと呼ばれる中南米からの移民の選手が多いという皮肉のメッセージであった。

今のアメリカ球界でもマイナーリーグ含めて野球は白人が独占するスポーツではなくなった。顕著なのは黒人選手の減少で以前はスター級選手が何人いたが、いまは2人いればいい方である。バスケットが全員アフロアメリカンなのに比べて対照的である。

原因は用具代がかさむということで、とにかく黒人は野球を敬遠するようになったという。

野球発祥の国であるアメリカのような国でも、白人や黒人がかつてナショナルパスタイム(国民的娯楽)として人気があった野球を敬遠するということは、アメリカという国にも以前にはなかった変化が起こっているようだ。

現在アメリカという国の中の人口比が急速に変化しつつある。その中で大きなモノの一つに前述のヒスパニック系移民の急激な増加である。

中南米から移民というのはアメリカ南部のリオグランデという川を渡って入国する不法移民や、正式に入国する移民といった、豊かさを求めて合法非合法問わず入国する移民があとを絶たない。

最近はアメリカとメキシコでFTAを定めて不法移民はメキシコの地元に強制送還するようになったが、今度はホンジュラスやニカラグアといった国の小さな子供をその子の親が50~100万円ほどでアメリカに入国させる不法移民ビジネスも存在し、アメリカ国内におけるヒスパニック系移民の頭数は(宗教上避妊できないため)増える一方である。

こうして増え続けるヒスパニック系移民はマジョリティである白人や黒人にとっては脅威である。

アメリカという国は英語を話すプロテスタントの一派であるピューリタンの白人が、自分たちの信仰の理想を実現する為に建国した国なのに、いまはスペイン語を話すローマ・カトリックの赤人(せきじん・中南米の人間は色だとこう表す)に自国の発言権を支配しつつある(しかも大統領は黒人だ)。

こうした動きは日本に住む日本人には実感しづらい。しかしデータで見るとその影響力はよくわかる。

アメリカの人口は約3億人だがそのうちヒスパニック系移民全体の人口は5073万人と約6分の1である。そのうちチカーノ(女性はチカーナ)と呼ばれるメキシコ系移民は3291万人となる。

数字にするだけだと実感しづらいかも知れないが、人口3000万人というのはオランダ(約1000万人)とオーストラリア(約2100万人)という2つの中進国の人口を足した数とほぼ同数で、日本で言うなら東京都・神奈川県・埼玉県の1都2県の人口の総数が約3000万人である。また5000万人という人数は韓国の総人口(約4900万人)より多いのである。それだけアメリカにおけるヒスパニック系移民の人口は国内でも無視出来ないモノになってきているのである。

アメリカのスポーツビジネスとショービジネスというのはヒスパニック抜きではやっていけないとよく言うが、今の中国が国際問題で対応に困っても人口という頭数を武器にして外交力を高めているように、アメリカのヒスパニック系移民もまた大統領選挙など国政などで票田として無視出来ないくらい力を持ってきているのである。

参考文献 新時代アメリカ社会を知るための60章 明石紀雄(監修)・大類久恵・落合明子・寺尾千波(編著) 2013年 明石書店

多眼思考 モノゴトの見方を変える300の言葉! ちきりん著 2014年 大和書房

ボクシングビート 2010年3月号