JリーグやW杯が日本社会に上陸した90年代。この90年代というのは別の見方をすると、それまで子供の低俗な娯楽と揶揄されていた漫画・アニメがアジアや欧州といった海外から逆輸入という形で爆発的な進化を見せて、日本のソフト産業領域を発展し国内の産業構造を(スポーツと共に)劇的な成長を果たした時期である。

そんな90年代のプロスポーツ産業が脱皮した先駆的な競技であるサッカー(Jリーグ)と国内の絶対的な外貨収入の一つに発展したアニメが今、国内で様々なコラボレーションをしようとしている。

J1に定着して長くなり日本代表選手をコンスタントに輩出している川崎フロンターレ。クラブスタッフの斬新なアイデアでいつもスタジアムに来てくれた観客を楽しませる川崎だが、そんな川崎もアニメでのプロモーションをやっていなかった訳ではない。

川崎を舞台としたシュールなギャグアニメ「サンレッド」という作品があった。国内の目の肥えたアニメ市場でも一定の評価を得た同作品が川崎のスタッフの耳にも届いた。利にさといアイデアマンの川崎のフロントがこの作品をほっておくはずはない。スタッフがアニメ製作会社や同作品のアニメプロデューサーに連絡をとり、川崎のマスコットを「怪人」として同作品に出演させられないかと考えた。しかしこれだとサンレッド側に利益がない。そこで考えたのがフロンターレの選手をアニメ化して怪人として出演させることである。中村憲剛や井川祐輔、クラブ社長の武田氏も特別出演してアニメ化は大成功だったという。特に武田社長はアニメ出演が評判となって「ノリのいい社長」というキャラが定着し、ファン感謝デーではサインを貰うのに長蛇の列が出来たという。川崎というクラブにアニメというキャラが出来た日であった。

その一方で茨城県のJ2クラブ、水戸ホーリーホックもまたアニメ化で観客の掘り起こしを考えるクラブであった。

きっかけは2013年春。水戸のサポーターが「ガールズ&パンツァー(以下ガルパン)」のフィギュアを水戸市内のレストランに贈られたことであった。

ガルパンは架空の「大洗女子学園」の生徒達が「戦車道」という武道で日本一を目指すアニメでこちらのアニメもファンの間で絶大な人気のある作品である。

このガルパンのある茨城県大洗町は水戸ホーリーホックのホームタウン推進協議会の一つでもあり、このフィギュアをきっかけに水戸の沼田邦郎社長らスタッフが同作品を見たところ、限られた戦力で日本一を目指すガルパンが自身の水戸ホーリーホックと被るということでコラボが完成した。

2013年11月10日の大洗町民デーには、それまで同町在住・在学の証明が出来れば無料になるサービスに加えて、大洗女子学園の生徒手帳や校章のグッズでも無料になるサービスをしたところ例年の3倍の集客に成功した。

また通常の水戸のレプリカユニフォームは1年で600着の販売数なのに対し、ガルパンとのコラボ版はシーズン途中で既に800着(1着18000円・税込)も売れているのである。これは慢性的な資金難でシーズン前のキャンプも難しい水戸にはかなり心強い援護射撃である。

こうしてここまで川崎Fと水戸のアニメ&サッカーというコラボの奮闘を見てみたが、クラブ社長というのは年配の人が多くてアニメに敷居が高い人もいる中で、「アニメ=つまらない」ではなく「アニメ=商売のチャンス」と捉えて、ノリをよくして行動していくことによってチャンスを切り開いていくものである。

参考文献 僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ 天野春果 2011年 小学館

月刊J2マガジン 2014年10月号 CLUB奮闘録 クラブ経営を考える