この「スポーツの現金化」シリーズも今日で150回目になり、ここ数回は米国サッカー界の変化について色々語ってきた訳であるが、今回は米国サッカー界の1部リーグ(MLS)と下部リーグとの関係やそこから見えるMLSの経営ポリシーを考えてみよう。

まずいきなり米国サッカー界の仕組みの中で一番特殊なところを言って見るが、それは「1部(MLS)と下部リーグとのチームの入れ替え制度は存在しない」というところである。

どういう事かと言うと1部(MLS)最下位のチームと2部(NASL=以前破綻したプロサッカーリーグと同じ名前のリーグが今の米国プロサッカーでは2部リーグに相当)で優勝したチームとの自動入れ替えは欧州やJのようには無く優勝してもリーグ内の立場は変わらないのである。

ここらへんが米国プロサッカー界のしたたかな戦略があるところだが、もし国内リーグが欧州やJのように昇降格制度を作るとどうなるか?チームが選手や指導者・フロントといったソフトの分野が未成熟な時に降格すると、チームが経営破綻するリスクを内包することになる。米国のプロスポーツリーグというのはリーグ内のチームは一蓮托生(運命共同体)のようになっているので、チームの破綻はリーグ運営の破綻に直結する。リーグのトップにとってそれは是が非でも避けたい事態である。野球や他のプロリーグのように昇降格がないリーグなら、例え選手やフロントが未熟でリーグ内での順位が悪くてもチームの経営破綻という最悪の事態は避けられる。

そうすると別の疑問も出てくる。「それならどうやってMLSは自分のリーグでチームを増やすのか?」ということである。MLSでは2部リーグ以下で運営ノウハウの経験を積み、チーム自体が1部リーグ(つまりMLS)でも十分な利益率や集客力を挙げるチームならMLBのようにエクスパンション(リーグ拡張)でチームを1部昇格させるのである。サッカーの成績も勿論重視しているのだが、それと同じくらいその下部リーグのチームがMLSという国内最上級のリーグでチーム運営できる財務体質をリーグの本部が厳しく見定めるのである。

実際にこのブログでも何度か言ったがスポーツビジネスの世界では他のビジネスのように顧客(地元ファン)の望むサービス(勝利)を人為的に提供することができず(したら八百長)、その為勝敗を担保にしたビジネスでは商売というより博打に近くなってしまう。その為かつてのプロサッカーリーグが破綻したような人件費と勝敗のみにこだわったリーグ運営ではなく、勝敗に左右されない戦力を均衡した(MLSはドラフト制度とサラリーキャップを導入)リーグ運営で堅実かつ安定した財務体質と破綻するチームを作らないリーグ全体の繁栄を第一とした経営を貫いているのである。

日本でもクラブライセンス制度でチーム運営の安全性を確認しようとしているが、意外とMLSの運営スタイルも参考になるかもしれない?