少し前の話になるのだが、俳優の福山雅治さんがツイッターを始めたというニュースがネット上に上がった。福山さんがイケメンなのは知っているが、筆者(独眼鉄)は男なので当然最初はそのニュースに執着してはなかった。しかしその次の(ニュースの)文脈を見て衝撃を受けた。そこには「福山雅治のツイッター。半日でフォロワーが9万人」と、あった。

このニュースを知った時、自分の目を疑った。福山さんがイケメンで女性にとって魅力的な俳優なのは知っている。そこが論点ではなくツイッターのフォロワーを9万人集めるのにたった半日しか時間を要さないというところである。

筆者が先日読んだ本にラーメン雑誌(厳密にはムック本=雑誌の形体だが書籍扱いで雑誌と違い、ムック本は書店の店頭に何年も置ける)の中に「90年代からラーメンムックは売れ始め、2000年代初頭にはこの手のムック本は最盛期を向かえた。最盛期の発行部数は約10万部に到達した」とあった。また「ある雑誌の編集部が10万部の発行部数を売れていたら、その雑誌の編集部員は自分の出版社の内部でかなり大きな顔ができる」とも言っていた。

しかしラーメンムックは2000年代中頃から売れ行きが急降下して今では1万部しかないという(それでも出版社サイドからすれば「1万部確保できる」ということもありムック本の編集部は存続していると言うが)。

翻って福山さんのツイッターである。ラーメンのムック本が10年かけて読者数(ツイッターならフォロワー)を増やしてきたものを福山さんは(福山さん個人の魅力とインターネットの爆発的な進化のみで)わずか半日で実質的に同じ数の読者を集めることができる。今の時代はネット社会の成熟により、ここまで個人(福山さん)と組織(大手出版社)の関係は急速な勢いでフラットに均一化しつつある。

勿論福山さんクラスの魅力を持った男性などそうそういるものではないのは分かってはいるが、このことを雑誌の編集部をラーメンムックからアラサー女子をターゲットにした女性誌に変えてみたい。

ある女性誌で福山さん(もしくは福山さんに匹敵するイケメン俳優)がいたとして、ネット社会が成熟する前は女性誌を買うしか彼らの情報を手に入れる手段はなかった。福山さんと顧客(女性誌の読者)の間に中間業者が存在していたことにより、中間業者の販売促進のための思惑も少なからず存在したであろう(これは前述のラーメンムックも同じ)。しかしネット社会が成熟した今の時代、お金を払ってそうした(福山さんの特集の)女性誌を買うより福山さん個人がツイッターで「女性の○×△のような仕草って可愛いと思う」と呟いた(つぶやいた)ほうが、福山信者の女性に情報のブレがなく、確実にダイレクトに圧倒的な速度でその情報が届くであろう(しかも無料で)。

こうしたネット社会が成熟した世の中では加速度的に情報が伝わり、個人と組織のパワーバランスが急激に変化しつつある。またそのネットの進化による社会の急激な環境の変化は雇用(この場合出版社の編集部員の雇用もしくは編集部そのものの存続)にも密接に関わる。福山さんのツイッターのニュースでそれを感じた。

参考文献 やさしさをまとった殲滅の時代 堀井憲一郎 2013年 講談社現代新書