先日、川崎新田ジム会長の元東洋バンタム級王者の新田渉世氏の「リングが教室。」(ポプラ社・2007年)を読んだ。新田氏は国立大卒業の初の王者でこの本も単なる口述筆記の本ではなく、内容のある本であった。

この本でもあったし新田氏自身が引退後はジャーナリストを目指していたことがあったが、新田氏が主宰する川崎新田ジムは単なる首都圏のジムのボクサーの育成のみならず、ボクシングジムと(川崎市内の他のスポーツチームと)川崎市の結び付きが他のジムよりも深くて濃い気がする。

川崎新田ジムは聞いた話であるが川崎市内での活動に積極的で、ボクシングという本業以外でも地域交流に熱心だという。今年の初めに川崎新田ジムで初めての世界タイトルマッチを川崎市内で興行を打つ時も(一般の方には分かりづらいかも知れないが、世界戦は相当経済的にも肉体的にも厳しい大金が動く世界である)普通の興行と違い(いつもの後楽園ホールではなく)川崎市内の会場でJリーグのゆるキャラを使ったり、新たな地域とボクシングの繋がりを先駆的にやったり何かと古いしきたりや慣習が残るボクシング界でスポーツと地域の関係の新たなビジネスモデルを構築しつつある。

川崎新田ジムに限らず川崎市内のスポーツの結び付きの深さを感じたのは2011年の東日本大震災の時である。ネットで知ったことであるがJ1川崎フロンターレのサポーター集団の川崎華族が震災後いち早く動いて募金活動を行い、また先の川崎新田ジムもそうだし他にも川崎市内に拠点がある大相撲春日山部屋や女子バレーのNECとスポーツの枠を越えた募金活動で被災者の支援ができたという。

近年サッカーが日本国内で「地域密着型」のビジネスモデルを構築しようとしているが、サッカー以外の競技(筆者は今回ボクシングを扱ったがそれ以外の競技でもそうだが)そのスポーツの応援や選手の育成のみならず、地域との活動を積極的に参加しスポーツと地元との結び付きを強めることが本来今の日本に必要なスポーツ文化なのではないだろうか。サッカーライターの宇都宮徹壱氏は震災後「地元を愛する心がある限り、この国は滅びない。」と言っていたが、これからの時代メジャーマイナー問わず、競技の成績だけではなく地域交流による結び付きもその自治体の価値を高めることになるように思える。