筆者が好きなボクサーの中に下田昭文というボクサーがいる。元世界王者で今でも現役である。昔、彼が所属している帝拳ジムで1500円で試合を見られることができたので、今でも筆者は彼のファンなのである。

しかし下田の試合を今まで14~15戦見たが、下田の試合で一番面白かったのは初黒星の試合であった。以前筆者のブログの2013年6月16日の「矛盾と誤算」でボクサーのマッチメークは相手を選べる部分もある。と、言ったがボクサーのマッチメークはぬるいマッチメークだと選手が育たない。しかし厳しいと潰れる。という非常に繊細なものでもある。

その時の下田の相手(日本人)は後に日本の国内王者になる強豪であったが、その時はまだ無名であった。しかし下田とその選手との試合は異常なまでに後楽園ホールが盛り上がり、今までの後楽園ホールの名勝負のベスト5には入らなくても、ベスト20には入るのではと思うぐらい凄い熱狂の試合であった。

この試合で当時全勝のレコードだった下田の戦績に傷がついた。その後も下田は苦しい試合が続いた。しかし下田の偉かったのはここからである。下田はこの初黒星を含む厳しい結果を肥やしにして、世界王者にまで這い上がってきたのである(初防衛に失敗して無冠になったが)。筆者は下田のベストバウト(最高試合)がこの初黒星の試合だったように感じる。負けた試合がベストバウトと言うのも変だが下田はそれまで才能だけで戦っていた感じがしたが、この試合を期にスタミナなど自分に足りないものを貪欲に吸収していったように見える。最初にも言ったようにボクシングは対戦相手を選べるスポーツである。やわなぬるいマッチメークで星を稼ぐこともできるのである。しかし下田と陣営はそれをしなかった。「艱難辛苦を玉にする」というが下田にとっての初黒星が、まさにその言葉に当てはまるように感じる。