残暑お見舞い申し上げます・・・・
叶えたかった夢のひとつが終わり、嬉しさ以上になんか寂しさに似たような心持ちに包まれています。
単独で山に登ることは、取り巻く多くの人たちを不安にさせ、不幸なことだということはわかっていますが、多分、次の夢に向かって直向に、努力し、準備を重ね、また挑戦していくのだと想像しています。
つたない文章ですが、山行報告を記します。
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8月2日前夜、昨年は土砂降りの扇沢で心もとない一夜を過ごしたが、今回はうっすらと月夜も感じられる空模様。期待を胸に一人静かに車中泊。
8月3日 扇沢=高瀬ダム-烏帽子小屋-三ツ岳-野口五郎小屋
朝、荷物をまとめ扇沢のタクシー乗り場へ。一人相乗り待ちの女性が高瀬ダムへ向かうので料金はワリカンで4000円也。高瀬ダムに到着し、ダムサイト横のトンネルを抜け、0700ブナ立尾根の登山道に入る。
北ア三大急登・・・どの程度のものか!?怖いもの見たさを感じながら高度を上げていく。歩行距離の割りには良いバイトで確かに三大急登と云える登りがこれでもかと続く。もういい加減にして欲しいと思ったころ1120烏帽子小屋に到着。最後はけっこうバテ気味になった。

小屋では、可憐なコマクサとチシマギキョウのお花畑が出迎えてくれた。曇り勝ちな雲行きを尻目に1150一路、野口五郎小屋へ向かう。暗雲が立ち込めてくると一昨年獅子岳山頂(夏合宿)で味わった悪夢(カミナリ)が脳裏をかすめるのだ。
野口五郎小屋へ向かう稜線は、眺望こそ望めなかったが、白い砂とハイマツの対比が美しい上に、コマクサ・チングルマ・ウサギギクなどが咲き誇る楽しい稜線散歩であった。
幾つかのアップダウンを繰り返し1415野口五郎小屋へ到着する。1600小屋外で寛いでいたら曇天を我慢できずにとうとう空がワッーと泣き出した。慌てて部屋に戻りマッタリと時間を過ごす。
8月4日 野口五郎小屋-野口五郎岳-真砂岳-水晶小屋-ワリモ岳-祖父岳-水晶小屋
野口五郎小屋の夕食は思いがけず地産野菜のテンプラの盛り合わせという豪華なモノであった。小屋は割と空いていて8人部屋に4人というゆったりムード。
0445行動開始、小屋から外へ出て天を仰ぐと、遠く富士山まで一望できる雲一つない蒼天の空が広がっている。「間もなく夜明けだ。」この一瞬を逃さぬよう足早に野口五郎岳山頂へ向かう。
山頂では絶妙のタイミングでご来光を拝することが出来た。西に目をやると明日歩く予定の水晶岳から続く赤牛岳の稜線がモルゲンロートして幻想的な雰囲気を醸している。その稜線を期待と不安の気持ち一杯に見つめていた。
表と裏、しばしば表は明るく、裏は暗い・・・表は賑やかで裏はひっそり。この縦走路も、そんな例に漏れずひっそりとして静かであった。真砂岳山頂直下をトラバースし真砂分岐へ。ここを左に折れると湯俣へと続く名路「竹村新道」だ。いつかは通ってみたい道である。
東沢乗越からは歩くほどに東南には鷲羽岳、三俣蓮華そして槍ヶ岳、西北に五郎池、東沢、水晶岳から続くカールが眼前に迫り言葉を失うほどに美しい。
0830水晶小屋着。宿帳に記入し「明日はここから!」という想いを強くする。小休止後、軽装備をサブザックに移し、楽しみの一つ「雲の平」に向けて歩を
進める。先ずは水晶小屋からワリモ岳山頂へ向かう。岩稜で小さなピークではあるが、鷲羽岳の圧倒的な眺望は素晴らしいものであった。
1045祖父岳着。予定では雲の平に向かう予定だったが、翌日の英気を養うことと思いの外、祖父岳山頂の眺望が良かったので直下にある庭園(祖父庭園?)で大休止。雪渓から流れ出す泉で疲れた足を癒し最高の気分を味わう。ほんと雲上の楽園でした。
1500水晶小屋着 終始マッタリ過ごす。
8月5日 水晶小屋-水晶岳-温泉沢の頭-赤牛岳-奥黒部H-平の小屋
0500行動開始。0530水晶岳山頂付近にてご来光を拝する。水晶岳からP2904まで嫌な岩稜帯が続く。コースも不明瞭なところもあり、視界不良・悪
天などではかなり厳しいモノとなることが予想される。0630温泉沢の頭、振り返れば冨士・槍・水晶・笠・黒部五郎・・・、東には昨日歩いた裏銀座の山
々・・・西には雄大な薬師岳が、前方には立山連峰から剣岳鹿島槍から五竜、白馬といった後立山連峰を一望できる好展望路。
そして眼前には今から行く赤牛岳が真っ赤にモルゲンロートして光り輝いている。
将に至幸の縦走路と云えよう。今この時、ここにいることを感謝し一歩一歩、歩を進める。
0830赤牛岳山頂、山頂では富山湾から能登半島までが一望出来る筆舌に尽くし難い眺望であった。目頭が熱くなる想いを隠せず至福の時を山頂にて過ごす。
ここに来るために重ねたトレーニングや親類にかけた苦労など・・・流れ出た涙は色々な味がしたけれど、そんな想いをしばし忘れさせてくれるような圧倒的な
眺望。天恵に深く感謝した。
0930下降開始。至福の時は山頂までで読売新道の本領はこの下降路から始まる。山頂直下は、ガレた悪路、痩せた尾根が続き細心の注意が必要な道が長く続
く。樹林帯へ入れば、滑りやすい上に「えっ!これが道!」と云いたくなるような急坂や梯子、鎖、ロープが連続する。奥黒部H側から入山していたらと思うと
ゾっとする道だ。
読売新道は、天国へ続く稜線路、地獄へと続く下降路だ。
1315這這の体で奥黒部ヒュッテ着。何時までも続くように思えた下降路のため抑え気味に飲んでいた水の心配もこれで無用だ。結局4リットル用意した水は3リットル強消費した。ヒュッテでは、活きた魚のように冷たい沢水を飲みまくり干からびた体に水を浴びせた。
1400小休止後、1720発の平の渡しに間に合うように余裕をもって下山開始。もう力尽きた感が脚にはあったが、明日の行動が楽になるしコースタイム2時間である。一度、平の小屋には宿泊したいと思っていたので行くことを決めた。
しかし道中、精も根も尽き果てるような容赦ない50段近い梯子が幾つも続く。ヒュッテで潤った体は、間もなく憔悴のそれへと変わる。ようやく黒部湖が見えるころには梯子の数も減り、平坦な道が続くようになりちょっとだけやる気が出てきた。
1600平の渡、1720の渡し船の時間まで黒部湖に足を冷やして疲れを癒す。平の小屋は、数年前に改築を済ませた品のある外観で従来の山小屋とは一線を
画している。小綺麗な和室の窓辺から流れる雲を見ていたら、読売新道を歩き終えた充実感というよりは、親しい友人が元を離れたような寂寥感に似た心持ちが
した。
楽しみにしていた読売新道が終わったのだ。
8月6日 平の小屋-黒部ダム=扇沢
0630行動開始、普段よりはゆっくりとした朝を過ごす。この黒部ダムに通じる道は、アップダウンが多い上に梯子が多く不評が多い。昨日通った奥黒部Hからの悪夢の再現かと思ったが、梯子の登下降もそれほどではなくブナの原生林が美しい奥秩父を思わせる道なりであった。
0930ロッジくろよん、1000黒部ダム、黒部ダムでは久方ぶりに見る人々の喧騒が妙に懐かしく、よれよれの自分とは乖離した違和感を感じたそんな喧騒
の中、「帰ってきてしまった。」という思いを感じながらダムサイトより遠く南に目をやると赤牛岳が悠然と聳え、「また帰っておいで。」と云ってくれている
ような気がしてならなかった。
1050扇沢 帰路につく。
【雑感】
裏銀座、読売新道と北アルプスでも魅力的な縦走路を天候に恵まれた形で無事終えることが出来ました。景色も最高、花も最高とくれば全てが最高といえる4日
間でした。水晶小屋では、布団一枚に2~3人という混雑ぶりで夏の北アルプスの一端を味わうことも出来ました。そして何よりも素晴らしかったのが、水晶-
赤牛間の縦走路です。将に北アルプスの中心を歩いているという実感がありました。黒部ダムまで下降せずとも水晶-赤牛感の往復でも行く価値は高いと思いま
した。
以上