山田太一の名作小説「異人たちとの夏」を再映画化。
観る者の記憶と郷愁を呼び覚ます、愛と喪失の物語。
原作小説は未読、以前の邦画も鑑賞していない。
比較対象がないので、今作だけで純粋に評価したい。
映画「異人たち」
ロンドンのタワーマンションで暮らす、40代の脚本家アダム。
12歳の時に交通事故で両親を亡くし、孤独な人生を過ごしてきた。
最近は両親との思い出を基にした脚本に、取り組もうとしている。
そこで幼少期に住んでいた郊外の家を訪ねると、両親に出会う。
30年前に死別したはずの両親が、当時の姿のまま生活していた。
両親はアダムを歓待し、成長した息子との再会を心から喜ぶ。
タイムスリップしたかのような、両親との心満たされるひと時。
アダムの孤独と喪失を埋めるように、家族の愛と絆を取り戻す。
その後も、アダムは足繁く実家に通って両親と交流する一方で。
同じマンションの住人である謎めいた青年、ハリーと恋に落ちる。
自分と同じく孤独の影をまとうハリーとの、儚くも情熱的な恋。
やがてハリーは、家族と距離を置いて生きてきたことが分かる。
互いに孤独でゲイである彼らが惹かれ合うのは、自然に感じた。
ラブシーンは濃厚に描かれ、幻想的ながらリアルで生々しい。
アダムは常に、現実と妄想の狭間を彷徨っているような感覚。
ハリーとドラッグを楽しむので、薬による幻覚なのか夢なのか。
アダムが生み出した妄想の世界なのか、観る者も混乱し戸惑う。
だがアダムの魂が癒され、救われていくのは確かだと分かる。
愛を知らないアダムが、愛に気付いた時に見せる変化と成長。
アダムは両親に自身のセクシャリティと、かつての苦悩を告白。
母親は驚き動揺を隠せない、素直な反応がリアルで共感出来る。
ゲイである苦悩と葛藤を知ることで、互いの心情を理解する。
双方が心の奥底を吐露して、真の親子の結び付きを強くする。
アダムに寄り添う両親の気持ちが優しく愛に満ちていて、感動的。
郷愁を呼び覚ます夢のような愛おしい日々は、永遠に続かない。
不思議と、両親は自分たちが死んでいることを分かっているよう。
別れが近付く寂しさと不安に苛まれるアダムを、支えるハリー。
だが、ハリーに隠された衝撃の秘密も、ラストで明かされる。
孤独な者たちが呼応して起こした奇跡に、切なくも胸を打たれた。
終始ファンタジックでスピリチュアルな世界観が漂い、夢幻的。
たとえ幽霊でも愛する人に会いたいと願う、その想いに泣ける。
愛と喪失の物語であり、時空を超えた救いと再生の物語だった。