映画「落下の解剖学」 | champagne-bar-tritonのブログ 映画と観劇と浜田省吾

champagne-bar-tritonのブログ 映画と観劇と浜田省吾

福岡市にある、「シャンパンバー トリトン」のオーナーです

カンヌでパルムドール賞を受賞した、ヒューマン・サスペンス。
雪山の山荘で男が転落死した。これは事故か、自殺か、殺人か。


映画「落下の解剖学」

 


人里離れた雪山の山荘で暮らす、ベストセラー作家のサンドラ。
彼女には夫と、視覚障害のある11歳の息子ダニエルがいる。


ダニエルが犬の散歩から帰って来ると、血を流し倒れた父の姿が。
サンドラはすぐに救助を要請するが、夫は転落死していた。


始めは事故かと思われたが、サンドラに殺人容疑が向けられる。
やがてサンドラは拘束され、裁判となり法廷に立たされることに。


こうして裁判で死の真相に迫っていく、濃密な法廷劇が始まる。
様々な証人が召喚され、検事と弁護士を含めたやり取りが展開。


サンドラは一貫して否認するが、次第に夫婦の秘密が明らかに。
事件を暴くはずが、夫婦や家族の内情を暴くような裁判になる。


執拗な検事の追及は、わざと煽っているのか腹立たしく悔しい。
そして、サンドラの性的指向も暴露され、夫婦の過去まで判明。


同じ小説家を目指す夫との衝突や、経済格差も見えてくる。
証人が増えるほど、次々と暴露されるウソや笑顔の下の本音。


自殺か他殺か、何故落下したのかを解剖する過程が面白かった。

 


さらに、ダニエルが視覚障害者となった事故の原因に至るまで。
夫は挫折と絶望の中苦悩しており、色んな問題が露呈する。
死亡した前日に喧嘩していたと分かり、ますます疑念を深める。


ダニエルは初めて知ることばかりで、ショックと動揺を隠せない。
幼い息子が夫婦の板挟みになる辛さは、愛があるだけに切ない。


追い詰められていくサンドラの焦りと怒りも分かり、ハラハラ。
そんな心情を隠しながら、冷静に裁判に挑む戦いぶりも良かった。


ついに夫が録音していた、夫婦の喧嘩の音声が法廷で流される。
生々しいやり取りに、互いが抱える不満や嫉妬等が爆発している。


仲良さそうでも、夫婦の内情は傍から見ただけでは分からない。
一気に疑心暗鬼の渦に引き込まれる、モヤモヤ感がたまらない。


最後にダニエルが証言台に立ち、裁判の結果が出る衝撃の結末。


「疑わしきは罰せず」の原則によるもので、当然の判決だと思う。
目撃者も証拠もなければ、当事者しか知る由はないのだから。


こんな風に周囲が想像を膨らませて、暴こうにも限界がある。
実際はどうなのか、なんてどうでもよくて結果が全てだと思う。


じりじりとした法廷劇は、見応えがありスリリングで素晴らしい。
様々な含みを持たせたラストにゾクゾクしつつ、安堵させたし。
夫婦の複雑な謎に迫る過程が楽しめて、人間ドラマが深かった。