荻上直子監督最新作は、新しい「つながり」の物語。
おいしい食と心をほぐす幸せを描く、ハッピームービー。
好きな監督なので、期待して鑑賞。
延期になってたけど、ようやく公開されて良かった。
映画「川っぺりムコリッタ」
北陸の小さな町に降り立ち、塩辛工場で働き始めた孤独な山田。
工場の社長から、築50年の川べりの安いアパートを紹介される。
家族も生き甲斐もない山田は、ひっそりと暮らしたいと願う。
無一文状態で、「ハイツムコリッタ」に引っ越して来たのだが。
隣の住人である島田が、風呂を貸して欲しいとやって来る。
断ってもその後も島田との交流が始まり、静かな日々は一変する。
島田を演じたムロツヨシさんが、はまり役で最高に可笑しかった!
図々しくて厚かましいのに、妙に人懐っこくて憎めない不思議。
実は繊細な面もあり、人間味あふれる愛すべき魅力的なキャラ。
覇気のない山田に声をかけ、小さな庭で一緒に農作業を始める。
二人の掛け合いが微笑ましくて、楽しくて随所で笑ってしまう。
その他、ハイツの大家の南さんは、夫を亡くし娘と二人で暮らす。
また、息子と二人で墓石を販売する、溝口という住人もいる。
誰もが貧乏で、ちょっと訳ありで、何かを抱えて生きている。
でも、底抜けに明るくて、共に支え助け合いながら暮らしている。
そんな温かい住人たちに囲まれて、山田の心は少しずつ変化する。
昔ながらの狭いコミュニティだからこその、密接な関係となる。
小さな幸せを分け合ったり、ご近所付き合いの楽しさがあった。
山田は風呂上がりに飲む冷たい牛乳が、唯一の楽しみだったが。
庭で採れた野菜、炊き立てのご飯、誰かと一緒に食べる食事等。
心を閉ざしていたが、日々のささやかな幸せに気付き癒されていく。
山田の心情が変化する過程が素敵で、ホッコリと心が温まる。
やがて、山田がある過去を抱えていると分かり、島田に知られる。
不安になる山田だが、社長も優しく力強いアドバイスをくれる。
山田を始め、誰もが大切な人を亡くし過去を背負って生きている。
穏やかで緩い日常に見え隠れする、生と死を感じさせて深い。
死と共存する中で、ふと生を実感し、小さな幸せに気付く瞬間。
そして、人間が生きる本能であり根幹である、食という日々の営み。
食事も命を得て、命を繋いでいく、生きるために必要な尊い行為。
生と死をユーモラスに描き、人間味を感じさせ誰もが愛おしい。
明るく微笑ましく、時にファンタジックに描いているのも良かった。
彼らの面白可笑しい日常の風景を、ずっと見ていたいと思った。
ラストの葬式も、明るくお茶目で可笑しくて、感動的だった。
山田が生きる幸せに目覚め、周囲に救われ再生を遂げる物語。
脇を固める豪華な役者陣の顔ぶれにもビックリで、終始楽しめた。