辻原 登『韃靼の馬』 | 音盤ながし

辻原 登『韃靼の馬』

 年末年始と雪かきに追われ、落ち着いて本を読むような日常じゃなかったけど、それでも細切れにでも読んでいたこの『韃靼の馬』はなかなか読み応えのある物語だった。

●辻原 登『韃靼の馬』
 

 そもそも”韃靼-だったん”好きなのかもしれない。おそらく最初に韃靼に目覚めたのは平岡正明の『韃靼人宣言』だったと思う。その後司馬遼太郎『韃靼疾風録』、平岡には『韃靼人ふうのきんたまのにぎりかた』ってのもあったな。ボロディンの「韃靼人の踊り」も好きだしなあ。

 ただし、韃靼のイメージって漠然としてるよね。ロシア読みではタタール。「タタールの軛(くびき)」って歴史の何かで覚えた気がするけど。所謂ロシアはモンゴル=タタールに長い間支配された歴史があるわけだ。中国の明の時代にはモンゴル系遊牧民の総称としての「蒙古」という呼び名を「韃靼」という呼び名に変えたとある。ともあれ、広大な北アジアの草原を馬に乗って勇猛果敢に駆け回った民族というなイメージがあるんだなあ。
 この物語に出てくる”韃靼の馬”とは天馬・汗血馬のことだ。そうそうあの『楊令伝』で楊令の愛馬乱雲がまさにその汗血馬。馬体が大きく、一日に千里を駆けるという超スーパーな馬なのだ。
 ということで読まずに死ねるか『
韃靼の馬』

 物語は十八世紀初頭の江戸幕府の時代。前半は朝鮮通信使の賑やかさ、そして朝鮮貿易を司る対馬藩の微妙な立場など興味深い話し満載で面白くためになる(すぐに忘れる知識かも、、、情けないが)。大阪の堂島米会所ではすでに先物取引が活発に行われていたり、漢字文化の先輩である朝鮮知識人使節と日本の知識人が詩文の唱和をしたり。ほほう、なるほどね、などと。


 主人公は阿比留克人。文武両道に秀でた対馬藩士で、朝鮮語を流暢に話し、対馬藩の釜山和館に駐留している。そしてその立場と才能から幕府の密命をも受けている。物語前半は朝鮮通信使の随行員として活躍し、そのために「一身二生」を生きることになる。

 そして物語り後半が韃靼の馬の登場となる。将軍吉宗に献上する天馬を求め韃靼へ旅立つのだ。もう冒険小説だよね。日本、朝鮮、モンゴルの歴史や風俗が巧に取り入れられ、スケールの大きさとエンタテイメントの楽しみを兼ね備えた冒険小説だよ。面白い!

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