佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』 | 音盤ながし

佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』

●佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』
 『海炭市叙景』にすこし心打たれたので佐藤泰志をもっと読みたいと思っていたら、どどっと文庫化された。先ずはこれから。
 '81年作品「きみの鳥はうたえる」、'79年作品「草の響き」の二編が収められている。「きみの鳥は..」は、ふたりの男とひとりの女、この三人の関 係性の物語。主人公とその恋人佐知子、そして主人公の友人静雄。しだいに佐知子は静雄とつきあうようになる。主人公はそのことを自然にうけとめる。主人公 は三人の関係の中で「空気のような男になれそうな気がした」という。
 主人公には名前がない。作者自身が空気のような自分をそこ(主人公)に置いたように。エゴ・執着が希薄な、どこか目的意識が持てない世代(世代ってくく るのはどうかと思うが)。ちょうど俺の世代がシラケ世代と呼ばれたのを思い出した。あの頃のATGの映画によく登場した無気力な若者達。佐藤は俺より7つ 年上だから、60年代後半の安保争乱など社会が沸騰していた時代に青春を過ごしたはずだ。しかしこの小説には、そんな運動のウの字も登場しない。
 静かな世界だ。主人公が精神を病み、その治療のため黙々とランニングをしているという「草の響き」にしても、タッタッタッとランニングする規則的な足音が静かに聞こえてくる小説だ。俺はふと、あの騒がしい時代に、空気のような存在として世の中を見つめていた佐藤を思う。
 佐藤泰志という作家については、文庫のあとがきなりWEBのウィキペディアを読めば
その病気のこと、そして41歳で亡くなったことはすぐにわかる。だからといって、彼の小説と彼自身のことを結びつけて読みたくはない。作品はニュートラルな気持ちで読みたいと思っている。
きみの鳥はうたえる (河出文庫)/佐藤 泰志
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