政治絡みの近代史の本ばかり読んでいると、オーバーヒート気味になるので、一服の清涼感に浸るために東海林さだお氏の本を読む。
《ショージ君の「料理大好き!」》
という本である。
この本は、東海林さだお氏とその他2名の男性スタッフ、一名は出版社社員で料理歴はモヤシいため一筋という通称モヤシの斎藤、もう一名はカメラマンで自家製ハム作製のためのカマドを所有する豪のものというか、しれ者というべきか通称カマドの坂本ら3名で、色んな料理に挑戦していく話しである。
年齢も職業も違う三人の面々が織り成すドタバタというかそれぞれの個性を発揮しながら、或いはウンチクをタレながら、悪戦苦闘奮闘努力で挑戦する状況を東海林さだお氏独自の視点で面白可笑しく表現している。
オムレツの巻では、
フランス料理の名シェフを講師に迎え、まずは、さだお氏がオムレツに挑戦する。
フライパンにサラダオイルを入れ、バターを投入し、溶き卵を投入。
小さな円を描きつつ掻き回していくと、
「左手左手!」
シェフの指導が入る。
(左手は常に揺すっていなければならぬ)
あわてて左手を揺する。
すると、「右手右手!」
またもや、シェフの指導が入る。
(右手の箸で卵を掻き回していなければならぬ)
このあたりでかなり、逆上気味になる。
把手側のフチを箸でつまんで中央に折りたたむ。折りたためたかナと思った途端、皮の途中が破れて中味がトロリと流れ出す。
やむを得ず、それでも箸でかきあげ反対側を起こすべくフライパンにトントンと空手チョップを加えるのであるが、たたけどたたけど、向こう側は起き上がってくれない。
やむを得ず箸を使って起こすと、またしても皮が破れて中身が流れ出す。
木の葉型どころではない。何型、と表現しようもない惨状型のオムレツができあがる。
再度挑戦するも、皮が破れる。反対側が起き上がってくれない。逆上する。逆上して悪戦苦闘しているうちに、焼きすぎてこげる、という手順になる。
三回挑戦したが、結果は同じであり、うなだれて選手交代、モヤシの斎藤にバトンタッチ。
さだお氏は、心の中で祈る。
(どうかうまくできませんように、皮が破れますように、逆上しますように)
《小学生レベルの祈りに、もう、大爆!》
祈りが通じたのか、モヤシの斎藤も手順どおり、皮を破り、ちゃんと逆上し、惨状型のオムレツを作り上げた。
「これ、どれくらい修行したらちゃんとできるようになるんですか」
ホッとしつつシェフにたずねた…という下りにもワロてしまったのである。
また、贋北京ダックの巻では、
アヒルのかわりに鶏を使い、鶏の足を、グッと屈曲位ふうに持ち上げ、タコ糸で縛り上げる、ギリギリと縛りあげる、糸が白い肉に食いこむ、一.五キロの白い豊満な肉塊が、屈曲位の姿勢で、縛りあげられて吊るされているのである。
「ムチを持ってきてたたきましょうか」
「いや、むしろ、ローソクで火責めにしたほうが」
「ハイヒールのカカトで踏んづけるというのは」
誰からともなく、そのような会話が成立する。
ヤらしい、いや、正しい男どもの反応も見受けられたりする。
ソコにはジメッとした淫猥で倒錯的なSMの世界ではなく、極めて開かれた男どもの明るい妄想の世界なのである。
ま、このような感じで、さだお氏独特の視点における表現には、どこか妙というか、屈折した楽しい可笑しさというか東海林ワールドに惹き込まれてしまうのである。
今後も、妙な可笑しさにニヤリとしながら、東海林ワールドにどっぷりと浸かるのである。
たかがオムレツ、されどオムレツ、料理の基本中の基本の料理に悪戦苦闘、逆上するさだお氏に、ナゼかこの曲を贈りたくなった。