当ブログでも何度か登場している氏。

氏は日本のグラフィックデザイナーである。

資生堂のアート・ディレクターという肩書で会社づとめをされていた方でもある。

僕が氏を知ることとなったのは、椎名誠の著作『わしらは怪しい探検隊』に出てくる隊員の一人としてであった。

隊員である一人一人は、糧を得ているその道では一流の仕事人ばかりであり、いい大人をした男どもが、山へ川へ、海へ、時には海外のそれらへ、と出向き、野外キャンプをし、野外料理を作り、焚き火を囲み酒を飲み、大いに人生を語る、というような仲間たちを描いた椎名誠の作品であった。

太田和彦氏も長らくその探検隊の仲間の一人であったのだ。

それから、氏のテレビ番組の居酒屋探訪シリーズを視聴したり、著書を読んだりとファンになった次第。

氏はグラフィックデザイナーなので、絵画や写真、建築物といったことへの造詣及び表現化することに才を発揮されているのだが、文筆家としても優れているように思う。

標題の著作の中にある表現に、氏の文筆家としての表現の巧みさを感じる文章の代表例として揚げてみます。

“中野の『らんまん』で今年も赤貝を注文した。ここの赤貝は最高だ。届いた盛りつけは、今剥いた大きな殻を縦に開いて置く。殻の外側は筋目にそってびっしりと黒い毛が生え、内側はつるりと真っ白。ぬらりとしたヒモが、太腿のように官能的にからみつき、凄艶な光景だ。ばっくりと開いた剛毛の殻をかきわけた。中の赤い貝肉は妖しく濡れ光り、誘い込むようで、思わずごくりと生つばを飲みこみ、ゆびでそっと触れると...”

どうでしょう。このグラフィックデザイナーとしての細かな描写に加え、その細かな描写への言葉の選択、

もはや赤貝を表現しているようで全く違った世界(エロース的官能の世界)を同時に表現しているという巧みさ。(というか、男性的趣向における表現の妙とでも言うべき?笑)
実に見事な描写であり、表現である、と個人的には絶賛したい。

しかし、この章におけるオチは、

“連れの女が「何してるの!」とけわしい声を発した”

とあるのだ。

...。(笑)

ま、というような感じでですね、堅苦しい論的なものではなく、大人の男の酒、肴、人における氏独自の視点で以て語られている本だと思われます。

実はまだ、触りしか読んでいないのだが、楽しんで読める本だと思う。