皆さま

 

人との別れは、とても大きな感情が

湧いてきます。

 

中でも身近な人との別れは、なかなか

言葉では言い表すことも難しいと思うのです。

 

決して簡単に前を向きましょうなんて、

言える勇気は私にはありません。

 

何かを感じてくれれば幸いです。

 

本日もよろしくお願いします。

 

【自己紹介】

幸せな人生に転換できた僕の物語

 

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「身近な人の死から何かを感ずる物語」

~それぞれのおはよう~

 

私には夫がいました。

 

夫は、とても大切にしていることが

あったのです。

 

それは、朝の挨拶をきちんとすること

でした。

 

「おはよう!」

 

その声は野太くて、力強くて

リビングの壁で

やまびこしているかのようです。

 

時には、私もその声がうるさいなあと

感じていた日ありました。

 

でも、そのことは、本当に私にとって

とても幸せな日々だったといえます。

 

そして、その声を聞くことで、

夫とのつながりを感じていたのかも

しれません。

 

それからずいぶんと年月が経って

ゆきます。

 

ひとり娘もずいぶんと大きくなりました。

もう思春期といえる世代になっていたと

思います。

 

娘は、毎朝響いてくる夫の「おはよう!」の

声に、怪訝そうな表情をしていました。

 

どうやら、娘にとっては夫の声は、

静かな朝には相応しくないと感じていた

ようなのです。

 

娘も多感な時期なので、それはそれです。

そんなときもあります。

 

その気持ちも私にもわかりますから。

 

そうして、その夫の「おはよう!」の声が、

徐々に小さく弱々しくなっていくように

なります。

 

もちろん、それが、私たちがそれなりの

年齢になったら理解をすることができます。

 

夫は、まだまだそんな年齢でも

なかったのです。

 

でも、そのことは誰にも止めることは

できませんでした。

 

それでも夫は、「おはよう」の挨拶を

止めることはなかったのです。

 

時には、長い月日を

病院で過ごすこともありました。

 

それでも病院のスタッフの皆さんに

聞くと、毎朝「おはよう」と言ってくれるのだそうです。

 

そのことを聞くと、安心する反面、

もう一度あの元気な「おはよう!」が

聞ける日常を戻したくて仕方なくなります。

 

でも、その日常は帰ってはきませんでした。

 

夫の「おはよう」の声は、月日を追うごとに

日を追うごとに弱々しくなっていったのです。

 

それから夫は、自宅に戻ってきました。

 

それでも夫は朝になると目を開けて、

「おはよう」と言ってくれ続けます。

 

もう、微かな声、声など聞こえていなかった

かもしれません。

 

また朝がやってきました。

 

私は、夫の様子を見にいきます。

 

夫の優しそうな表情を見ることが

できました。

 

そうして、私は、少しの焦りとともに

「おはよう」を探します。

 

でも、夫から「おはよう」を見つけることは

できませんでした。

 

自然と耳を澄ましても、庭の木にいる

鳥の鳴き声が空しく響いています。

 

それから、当たり前のことですが、

私たちに夫の「おはよう!」を聞くことは

できなくなりました。

 

なくなってから気がつきます。

 

どれだけ私があの夫の「おはよう」で

毎日を幸せに生きることができていたのか。

 

娘もあのときは疎ましく思っていた

夫の「おはよう!」が二度と聞くことが

できなくなったことをしばらくの間、

受け入れることができないようでした。

 

娘も、もちろん私も、どれだけあの

いつもの何の変哲もない日常が、

どれだけ幸せな日々だったのかと

今になって実感をしています。

 

これから、私も前を向いて生きていけるのか

心の底からの自信はありませんが、一歩ずつ

また一瞬一瞬を大切にできるよう、

この日常を生きていきたいと思います。

 

あ、これからは、私が、娘に元気な声で

「おはよう!」と挨拶をするようにしてみようかな。

 

あ、でも、そんなことをしようとするだけで

涙がこぼれそうね。

 

「おはよう!」

 

【終わり】

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この物語を読んで何か一つでも

感じていただけたら嬉しく思います。

 

想いを乗せて書いています。

 

皆さまよろしくお願いいたします。