皆さま
先日の台風はとても大きかったようで、
恐怖や不安に包まれた方々も
多かったのではないかと思います。
被害にあわれた方には
お見舞い申し上げます。
本日は長編シリーズを一時中断いたします。
また明日から再開します。
では「道端で起きている幸せを綴る物語」の
第87作目を書いていきたいと思います。
「台風が怖くて不安な雅実さんが道案内をしてもらった物語」
雅美さんは働く40歳代の女性です。
雅美さんには人には言っていない
秘密がありました。
「台風が怖い」のです。
台風が怖くて不安になって
いてもたってもいられなくなるのです。
そうして、ある日のこと
とても大きな台風が
雅実さんの住んでいる
地域を通過することが
わかりました。
それから雅実さんは
とっても憂鬱になります。
会社に行っても、友人と
会っていても
台風のことが気になります。
しかし、気にしたところで
どれだけ台風の対策を
したところで
雅実さんの気持ちが
落ち着くことはありませんでした。
大きな台風がやってくる
直前の会社での
雅実さんはドキドキバクバクと
心臓が脈を打ちます。
「家に帰りたいけど、家に帰るのも怖い」
そんな両極端な気持ちを
抱えながら雅実さんは
仕事をしました。
この日は夜に台風が来るということで
夕方には家に雅実さんは
帰っていました。
雅実さんは独り暮らしです。
テレビを付けると
台風が危険であることを
何度も何度も繰り返し
画面に流れます。
昔の台風災害の映像も
流れています。
雅実さんはそれを見て
さらに恐怖感や不安感を
増していきます。
「怖い。このままどうなるのだろう・・・」
行き場のない恐怖感と
不安感で雅実さんは
台風が来る前に
押しつぶされそうになっています。
わけもわからず部屋の掃除を
して気を紛らわせます。
もちろん食事もまともに
食べることはできません。
テレビを見るのをやめて
静かにして
本を読むことにしましたが
「ガタガタ」と徐々に
強くなる風の音が気になって
集中できません。
テレビのニュースは台風情報ばかり
なので、お気に入りの映画の
DVDを観て心を落ち着かせます。
どうやら台風が通過し始めた
ようです。
風の音と雨の音がとても
大きくなってきて
テレビの音量を上げます。
なんとか平静を保っていましたが、
窓ガラスが割れんばかりの
音を上げたことをきっかけに
雅実さんの心の堤防も
決壊してしまいました。
そうなると、見るもの全てが
雅実さんには恐怖感を
あおるものとなっています。
お風呂に入るのも
相当な覚悟が必要となりました。
「入っている間に家が潰れたら・・・」
なんとか首を振って想いを
振りほどいてお風呂にも
入ることができました。
そうして、疲れきっているはずの
雅実さんは床に就こうとしますが
一向に眠ることはできません。
定期的に窓がガタガタとしたり、
建物全体が揺れる風、
建物全体を流してしまいそうなほどの
雨の音で、
眠ることなんてできませんでした。
ようやく台風が落ち着いてきた
明け方に雅実さんは
少しだけ眠れました。
次の日の朝、昨日の
大きな台風が嘘のように
青空が広がっています。
台風一過というやつです。
雅実さんは少し安堵しました。
一晩以上にわたって身も心も
縮こまらせて過ごしていた
雅実さんは少しでも解放
したくなり、まだ
風の強さの名残がある
外へと出かけていきました。
雅実さんが歩いていると
目の前から70歳代くらいの
女性が歩いてきます。
「台風すごかったね~、無事に行ったみたいね、もう大丈夫よ」
女性は雅実さんにいきなり
話しかけました。
もちろん、雅実さんはこの女性を
知りません。
雅実さんはとまどいましたが、
話しを合わせることにしました。
すると、女性は雅実さんに
連れていきたい場所があると
言いました。
女性は雅実さんを道案内し始めます。
雅実さんは女性と
台風の話をしながら
ゆっくりと歩いて進みます。
女性は雅実さんの台風の話を
しっかりと聞いてくれています。
しばらくすると、河原に広がる
広場に着きました。
広場を少し上から見える
場所でした。
そこは草原と木々が生える
綺麗な広場です。
なぜだか落ち葉一つ
落ちていないようでした。
「綺麗な広場ですね」
思わず雅実さんは
女性にそう言いました。
「そうでしょう?」
「はい」
「でもね、この広場は昨日の台風が来るまでは落ち葉がたくさん落ちていたんだよ」
「え、そんなわけ・・・」
「そんなこともあるんだよ。もしかしたら誰かが掃除したかもしれないけどね。台風が綺麗さっぱり風と水で流したのかもしれない」
「台風が・・・」
「そう、意味のないことは起きてないのかもしれないわね」
「台風怖い」
「その怖い台風がね、何かを吹き飛ばし洗い流すのかもしれないのよ」
雅実さんは目を丸くして聞いています。
女性はさらに続けます。
「今日はとっても晴れているわね。台風一過ね。台風のような荒天があるからこそ、この快晴の天気をありがたく思えたりするものよ」
雅実さんはそこまで聞いて、
自分がなぜ台風を怖がっているのか
考えてみました。
答えは出ませんでした。
でも台風にもきちんと
世の中での役割があるのだと
ほんのりわかったような
気がしました。
それは、その話しを聞いたからか
雅実さん自身の気持ちも
少し掃除された気がしたからです。
雅子さんは自然と
台風の悪い面だけを見ることは
やめようと思ったのです。
雅実さんは台風一過の晴れた日に
広場に道案内してくれた
女性との出会いという
偶然に感謝しました。
【終わり】
もちろん、台風は自然災害であり
甚大な被害をもたらすものでもあります。
だからこそ全てを肯定しているわけではありません。
台風にも良い面と悪い面があります。
その悪い面だけ見ているとどうしても
台風=恐怖感となることもあります。
良い面も見て、台風を闇雲に怖がるのではなく
少しでも過ごしやすくなろうという物語です。
現在、不自由や不安を感じる人生を送っている人が
このブログを読んで少しでも新たな一歩を踏み出してくれる
きっかけになったら嬉しく思っています。
世の中には親切な人は意外といます。
そんな願いを込めて書いています。
何か生きる上でのヒントになりましたら幸いです。
皆さまよろしくお願いいたします。