楠木正成の戦いは、ここ上赤坂ではなく、下赤坂の城から始まる。

もっとも、下赤坂城は、急ごしらえだったため、兵糧の用意がなく、あっという間に落ちるのだが

このとき、正成と楠木一門は、自害を装い、自ら城に火を放って姿を消す。

身を潜めた半年の間、次の戦に備えて、コツコツと二つの城を築き、兵糧を運び込み、諸国を巡って、有力な反幕勢力との最後の連携をはかった。

そして翌年、飄然と姿を現し、幕府軍が再築していた下赤坂城を奪還、さらには住吉・天王寺に打って出て、鎌倉幕府の軍勢を、打ち散らした。

楠木正成が暴れている。

その武勇を、大阪の中心で華々しく喧伝しながら、諸国にくすぶる小さな反幕の思いにも、少しずつ、火をつけていったのだ。

そして、ここ、上赤坂城である。

幕府の目も、人々の目も、一気に引き付けるがごとく、彼は山の上で、孤独な闘いを始める。

それは、自ら倒幕の旗印になると、改めて天下に宣言するようなものだったろう。

楠木正成ここにあり!

その布告にこたえて、約10万の幕府軍が、高波のように正成に襲いかかった。




富士山富士山富士山



わたしがこれから登ろうとしているのは、その上赤坂城の城跡である。


地元の方に聞いたところ、迷うような山ではないが、ひとけは全くなく、イノシシが出る「かも」しれないとの注意は受けた滝汗


登山口で、柏手打って、不安を祓う。正成さんと金剛山に、加護を願った。



富士山富士山富士山



山に入るなり、息をのんだ。






道の両壁が、V字に深く切り立っている。


道幅は狭く、しかも、ぐねぐねと、蛇のように曲がっているので、
カーブごとに競り出した山肌に視界を塞がれ、曲がった先に何があるのか、予想もつかない。


なんだ、この異様な山は……


見たこともない山容に、声も出なかった。


一歩、一歩、山深く入り込むごとに、静かな興奮で、心が燃え立っていく。

体ごと、山に呑まれるような圧迫感の中を、わたしはそろそろと進んで行った。




~つづく~