一握りの成功体験のキャッチフレーズが世の中に溢れる中で、僕達はこういったものにまず胡散臭さを感じてしまう。
上司の若かりし頃の成功体験を聞くことがウザいと不満をもつ部下が多いのも、権力(権威)がある人の発言を万人に正しいものとして押し付けるような風潮があるからかもしれない。
教育の現場でも沢山ある。
「偏差値30台から東大合格」、「英語を1ヶ月でマスター」など「自己の結果」に基づいた体験記であたかもそのプロセスを実践すれば誰でも再現性があるかと思わせるのもその一つだ。しかし成功した人と同じことを盲信して実践してもその人と同じ成果をおさめられるわけではないと、多くのアラフォーは悲しいかな、既に悟ってしまっている。
なぜか?
それは人間の成功には、あまりにも 多くの環境や要因が複雑に絡み合って影響しているからだ。
米国社会では、ブッシュ政権下で2001年に成立した「落ちこぼれ 防止法」 とその翌年に成立した「教育科学法」 の精神が、かなり広く受け入れられている。
米国では「科学的根拠に基づいた教育を実施することが主流」になっているようだ。
この教育経済学の分野では、ゲイリーベッカー教授(ノーベル経済学賞受賞者)やジェームズ・ヘックマン教授が有名である。
面白い本を紹介する。
「学力の経済学(著者 中室牧子 2015年)」この本では種々の教育手法が実際にどれだけ子どもに成果をもたらしたかを多量のデータから得られた客観的な数字で根拠を示し粛々と説明している。
「ビットコインで1億円を稼いだ」「偏差値30から東大合格」が5
コロナの専門家の力説が6
つまり、個人の成功体験や専門家の意見をあたかも正解のように書いているものは肩書やキャッチフレーズに惑わされて信用してはならない。それらはサイエンスの世界では、下の下の信頼性しかない根拠である。
さらに低レベルな話になるが、昔、マイナスイオンがあーだこーだ、水素水が健康や美容に効果あるとやたらとメディアを賑わせた時期があったがあれらは当然このエビデンスレベルにすら入らない疑似である。サイエンスちっくな疑似科学ビジネスである。
本書を読むことで漠然と感じていることがロジカルに裏付けされ、今後の子育てに大いに役立つと思う。
自分の子育てで全てを実践するのは難しいが、方向性は見える良本でありここで一部をピックアップして紹介する。微妙な表現に間違いがあるかもしれないので、興味があれば本書を実際に読むことをお勧めする。
子どもは褒めて育てるべきか
・凄いね!天才だね!上手だね!と結果(アウトプット)や能力を褒めるより「ここまでよく頑張ったね」「続けて良かったね」などプロセス(インプット)を褒める方が効果的。次回のテストで良い点数をとる
・褒めると自尊心が高まり(原因)、それによって学力が高くなる(結果)ことにつながるデータは示されなかった。真逆であり学力が高くなる(原因)ことで、自尊心が高まる(結果)ことが分かった。
・むやみやたらに結果に焦点をあてて褒めると、実力の伴わないナルシストを育てることになる。
ご褒美でつることは効果的か
・ご褒美で子どものモチベーションをあげる時は「テストの結果が良かった」というアウトプットにご褒美をあげるのではなく、「本を読む」「宿題を毎日する」「学校に毎日出席する」といったインプットにご褒美をあげる。
・ご褒美をあげるタイミングは、努力しているプロセスに対してあげることが効果的で、顕著に学力が向上した。子どもは遠い先の利益より身近な利益を選択する。努力の先の結果という不確定要素のあるご褒美には殆ど興味がなく学力は全く向上しなかった。
・ご褒美を与えたからといって子どもの「勉強することが楽しい」という気持ちは消えない。つまりご褒美を与えること自体は悪くないが、(どうせ与えるなら)効果を出す与え方、つまりプロセスに対して与えたほうが良い
幼児期において学問より大切なこと
・幼児教育によってIQが向上した子どもとそうでない子どものIQは8歳前後で差がなくなる。つまりいくら幼児教育で先行して学問を習得しても少し長い目で見れば変わりがない
・一方で「非認知能力」については長期に渡って効果が持続する。この非認知能力で代表的な能力が忍耐力や自制心。つまり、幼少期は辛くても努力することや継続することを習得させると良い。その習得によって人生そのものを変える。長期データにおいて幼少期にこの能力を獲得すると、偏差値の高い大学合格や、年収の高い会社に就職するなど顕著に効果があらわれるデータが得られた。