監督のご要望に応えるのが、基本的に俳優の仕事です。どんな仕事でもそうですよね〜期待に応えるのが仕事です。
くノ一忍法帖蛍火、立花登青春手控えでもお世話になった服部大二監督。衣装合わせの時…
監督「今回は、独身男性の嫉妬嫉みをクサく演じてもらいたいです。お得意ので!」
私「お得意のでって…わかりました」
台本もらったのがひと月前、このセリフたちを嫉妬嫉みでクサく演じる?どう料理しよう?そのように書かれているセリフなら訳もないのですが、そのように書かれていないような、書かれているような…やりようは無限にあるのが芝居の世界。
懊悩する日々、何をしてても頭の片隅に引っかかる。本番の一週間前から寝れなくなった。2時間ぐらいで目を覚ます。冷や汗…ここまでなるのは初めてだ。
今までお世話になったスタッフさんばかりの現場、監督からの期待に応えなきゃいけないプレッシャー、役者を殺すにゃ刃物はいらぬ、重圧だけで自滅しちゃいそうだ。
本番当日、現場に着くと、散々お世話になったスタッフの方々、明るい声で「チャルさん!」とお声掛けをもらう。わたしも明るい声で対応するが、内心それどころじゃない。
助監督「●●役の井之上チャルさんでーす!」拍手が鳴る。
監督「じゃ段取りやってみましょう!」
現場に行って、こんなセットで、こんな机で、こんな小道具を持っているのか?この小道具を持ってのしかも歩きながらでスタートするのか!
思ってたんと違う!そういう事はドラマではよくある事だが、今回だけは私の想像力の範疇でやりたかった!言うてる場合じゃない臨機応変対応しなければならねば…臨機応変、臨機応変。
朝の5時に起き、支度をして京都に向かい、3つのシーンの撮影が終わったのは、夕方の4時だった。監督からは感謝のお言葉を頂き、プロデューサーからはお褒めのお言葉を頂いた。
正直めっちゃめっちゃホッとした…いつからこんなに楽しめなくなったのだろう…共演者の方からは、すごい芝居しますね〜勉強になりますとか自由ですねとか言われるが、本人は監督からのご要望に必死に応えているだけなのだ。
今更、俳優に向いてないとわかったとて手遅れだ。向いてなくともやるしかない!いつの日か若い頃のように、芝居をしていて楽しかったと思える日がくると信じて前へ歩こう。
この日の夜、久しぶりにぐっすり眠れた。
