side…S
晴れわたる空。
ゆったりとした時間が流れるのどかな休日の昼下がり。
空港の展望デッキには家族連れやカップルの楽しそうな笑い声が溢れていて。
こんな幸せな空間に雅紀と一緒に居られることは奇跡なのだと改めて思う。
元々俺はオシャレに関心があるタイプじゃなかったから、指輪なんてひとつも持ってないし。
そんな自分に指輪を身につける日が来るなんて想像もしてなかったけれど。
雅紀から贈られた結婚指輪は俺の左手薬指にしっくりと違和感なく馴染んでいる。
「こんなぴったりに俺の指輪のサイズが分かるなんて、やっぱり雅紀はすごいなぁ。」
俺は空に飛び立つ飛行機を掴むみたいに自分の左手を高く掲げ、生まれて初めての指輪をくすぐったい気持ちで眺めていると。
「それは、翔ちゃんがぐーぐー寝てる間に薬指のサイズを測ったんだよ。」
雅紀はそう言って、俺の胸ポケットからおもむろに眼鏡を抜き取った。
そして自分でかけて見せて「彼シャツじゃなくて…彼メガネ!」と笑った。
古めかしい黒ぶち眼鏡は小さな雅紀の顔を更に小さく見せる。
「翔ちゃん?このメガネって大学生の時にボクが選んだヤツ※だよね?」
「そうだけど?」
それはふたりが大学生の頃、女の子に言い寄られても上手に断れなかった俺の為に雅紀が選んでくれたモノで。
真っ黒なセルロイドのフレームは分厚くて絶妙にダサくて。
雅紀曰く、女の子よけに最適!なのだそうだ。
我ながら物持ちが良すぎだとは思うけど、俺はその時からひとりで行動する時は必ずこの眼鏡をかけてきた。
「ボクは翔ちゃんが女の子にモテないようにって、わざとダサいメガネを選んだのに。翔ちゃんは嫌がらずにそれをずっとかけてくれててさ。翔ちゃんを女の子に取られたくないっていうボクの勝手なワガママに付き合わせてしまってたよね。ごめんね。」
「雅紀の願いを叶える事が俺の喜びなんだから、そんな事気にしなくていいんだよ?」
思わぬ方向に話が進み少し焦った俺が、神妙な面持ちでうつむく雅紀の頬に触れると。
雅紀は安心したのか顔を上げ、黒ぶち眼鏡を外して俺の左手に触れながら。
「でもこれからはこの指輪が女の子よけとして大活躍するはずだから、こんな重くてダサいメガネはもう付けなくていいからねっ。」
と薬指のピンクゴールドの指輪を人差し指でなぞった。
そして、
「って事で。これからもボクは翔ちゃんへの独占欲をメラメラ燃やしてくんで!覚悟しててよ、翔ちゃん?」
満面の笑みを浮かべて、ばっちーん!と音がしそうなくらいヘタクソなウインクをした。
※スマイル49参照
