side…M
あのあと。
空港からの帰り道。
今日はどうして空港だったの?とか。
いつの間に指輪を用意したの?とか。
助手席の翔ちゃんがクイズの答えを知りたがる小学生みたいに次々と質問を寄越してきた。
広報部のメンバーがボク達の事を祝福してくれている事を伝えると。
翔ちゃんは驚きと感激が入り混じった表情で嬉しそうに笑った。
「ボクね。翔ちゃんにプロポーズする時は空港でする!ってずーっと前から決めてたんだよね。」
「ずっと前から…プロポーズしようって思ってくれてたんだ…。」
今日なぜ空港だったのかという事より、ずっと前からボクがプロポーズしようと思っていた事の方に反応した翔ちゃんが乙女のように頰を染める。
「高2のクリスマスの時に翔ちゃんが急にニューヨークに行く事になってさ。ボクが空港まで見送りに行ったの、覚えてる?」※1
「もちろん覚えてるよ。雅紀にもう会えないって諦めてたのに颯爽と雅紀が現れてさ。すごく驚いたけど、めちゃくちゃ嬉しかったんだよなぁ。」
そう言って翔ちゃんが懐かしそうに微笑み、ハンドルを握るボクの左耳たぶのピアスに触れた。※2
「その時にね。ボクは翔ちゃんが好きだ!ってハッキリ自覚したし、絶対に翔ちゃんを失いたくないって心の底から思ったんだ。」
「お、俺だって!雅紀のこと、ずーっと前から今も、大好きなんだからな!」
ボクの言葉に対抗したのか、翔ちゃんが必死になっている。
そんな翔ちゃんが愛おしい。
「あれから何年も経って大人になったけど。あの時、胸に抱いた翔ちゃんへの気持ちは今も変わらないし。あの日があったからこうしてボク達は今も一緒に居られてるのかな…って思うんだ。だからボク達の出発点でもある空港でプロポーズしたかったの。」
「そういうことだったんだ…。」
こたえあわせに納得した翔ちゃんはしみじみと呟き、大事そうに抱えていたリュックに手をかけた。
「今日は何から何まで全部、雅紀に持ってかれちゃったけどさ。実はもう一個サプライズあるんだよ。」
「え?婚姻届だけじゃないの?」
ワクワクで運転どころではなくなったボクが慌てて車を路肩に停めると、翔ちゃんが見覚えのある紙袋を取り出しニヤリとする。
「じゃーん!告白と言えばコレでしょ?」
「あ!オオノベーカリーの3色パン!※3」
それは、翔ちゃんのここぞという時に大野さんがいつも焼いてくれていたという3色パン。
それはボク達の歴史と共に歩み、いつしか大切な人に想いを伝える時の必須アイテムとなっていた。
「ほんとはね。さっき婚姻届と一緒に渡すつもりだったんだけど、タイミングずれちゃったなぁ。」
翔ちゃんが3色パンを手に苦笑いしている。
その香りは、ボク達が積み重ねてきた沢山の甘酸っぱい記憶を呼び起こさせた。
「ありがとう翔ちゃん!嬉しいよ。」
「家に帰ったら一緒に食べような、雅紀。」
そして微笑み合うボク達のくちびるは自然と重なり、香ばしくて甘い香りがふたりを包み込んだ。
※1 still59&still60参照
※2 伝えたいこと37&伝えたいこと38参照
※3 still53&still54参照
seasonやスマイルにも出てきます。