「うわーそのままだ…」




久しぶりの家
海外の大学に留学して大学院まで進み、そのまま父親の会社の支社を任されていた

だから…8年ぶり?

俺の部屋は8年前からそのままで時が止まっているように見えた


そうここで…

勉強したっけ…よくそのまま寝てしまってお手伝いさんに迷惑かけたんだよな…

あぁこの本!
ハイスクール時代にストーリーを覚えてしまうほど繰り返し読んだっけ
出窓に置きっ放しで色褪せてしまっている


あ…この窓

この瞬間鮮明に過去の記憶が蘇ってきた



あれはいつだったか…









いつものように家庭教師に課された宿題をこなしていた
息がつまりそうだった俺は窓を開けようとしたんだ
くーっと伸びをして窓から外を見た

変わらないいつもの景色
手入れされた草木に季節によって植えられた花々
とても綺麗なのに気味が悪いのは
きっと庭であるというのに人の気配さえしないから…ん?

何かいる…木の陰に!

……人!?

僕は窓を開け身を乗り出した
確実に人だ
僕と同じ年齢くらいの青年か?
木にもたれかかって座っているようだ…しかし微動だにしない


死んでる?

その肌は青白く、生気のないように見えた

息はしてるのか…?

2階からだとよく見えない…さらに窓から身を乗り出した

ん!…動いた!


「うわっ!!!!」



ードスンッ

「痛っ…」

「おはよう
いい朝ですね

よく眠れました?」

「えっ?あっ…えっ?」

顔をあげると色白の青年が目の前にいた
青年はしゃがんで物珍しそうに僕を見ている

さっきの人か?

「ねぇ、ねぇってば」

「は?え?」

「なんで落ちてきたの?」

あぁ、僕窓から落ちたのか…いやそれよりも…

「なんでうちにいるの」

「何、あーここあんたの敷地?うわ…」

青年はしゃがんだまま見回した

「家に帰って寝た方がいいよ
こんなところじゃ風邪ひくし…」

「家?どこの家?あんたの家?」

「そうじゃなくて自分の家は?」

「それはよくないよ」

青年はいきなり立ち上がった

「だーからお坊ちゃんはダメなんだよなー」

「え?」

「いやいやこっちの話」

「聞こえてるよ…」

「なぜなら僕には家がないから」

「あ…え、ないって」

「いや、あるかな」

「え?」

「数え切れないほどあるよ、家なら」

「は!?」

青年はまたしゃがんで僕を覗き込む

「毎日新しい家に泊まるの
どこにいってもただいまって言えばみーんな迎えてくれるよ?
お兄さんでもいいよ?遊んであげようか?今日にする?泊めてくれるならボクが遊んであげる…」

「え?…」

「ふっ、冗談だよ…あからさまに引いた顔しないでよ」

冗談だと言ってるのに青年は矛盾した顔をしていた

沈黙が僕と青年を包んだ



「…お人形さんみたいだね、その服」


「えっ…いや…は?…そ、そっちの方が」


今夜の舞踏会のため着ていた服
いかにもお坊ちゃんという感じで好きではなかった
それをお人形と形容されたことが恥ずかしくてたまらなかった
そして不意をついて出てきてしまった言葉…
人形に形容するなら彼の方がふさわしいと思った
華奢な体に虚ろな目
血の通っていないような肌
でもいくらなんでも男にこんな言葉をかけた自分もまた、恥ずかしくてたまらなかった

「こんな汚いお人形さんなんていないでしょ」

力なく彼は笑う




「僕についてくる?」

「え?」

「.毎日つまらなくない?
つまらないって顔してるよ」

「え…」

「楽しいよ?」

今日は舞踏会…大事な日…でも
なんだかついていかないといけない気がした

「でもうちは警備が厳しいから出られないよ」

「いや、ボク昨日入ってきたもん

こっちだよ」

家の敷地の奥の木に抜け道があった

「こんなとこあったんだ…」

「早く!人来ちゃう」

人生初の悪行になんだか足が重い…しかし青年は構わず進む

森を抜けると大通りに出た
あちこちの車から着飾った人たちが出てきてうちに向かっている
そう…舞踏会が始まる頃だ
そんなことは気にもとめず青年は僕の手を引く
僕はその人達と目を合わさないようにして走った

「こっち!」

青年は細い道に入った

いつも車で素通りする道だ
ずっと何があるのか気になって車の窓から覗いていた
すると父親は決まってこう言うのだ
庶民が集まるところだから関心を持つな、と

ずんずん進んだ先には明らかに営業していないような店があった
躊躇する僕を尻目に迷うことなく青年は店の奥に入って行く

「あ、待って!」

店の奥にある古びた階段を降りて青年がドアを開けた
すると同時にたくさんの音が耳に届いた
人々の笑い声、好き勝手な演奏、頻繁に交わされるグラスの音…
この薄暗い空間は明らかに飽和しており、たくさんの人がいた

青年は人を掻き分け
センターステージに僕を引っ張り
そして音とも言えない音に合わせて踊り出した
軽やかな彼のステップは一気に場の空気を変えて皆を飲み込んで行く、僕も然り…

踊り出した青年はとても輝いていた
さっきの気だるい青年とは明らかに別人だった
青年は楽しくて仕方が無いような目をしている
今の彼ならスターにも引けを取らない…いやそれ以上か?
ここが数万人収容できる会場でもおかしくないほどだ…
さっきまで僕の手を引いていた青年がまるで違う世界の人にみえた
そして僕をみた

「踊ろ」

さぁ、と手を差し伸べる

「え?い…いや」

「踊れないの?」

彼は踊りを止めない

「バレエしか知らない…」

「いいじゃんそれで」

恐る恐る踊ってみる

同じ世界に入れているのか?

うまく馴染めているのだろうか

彼が笑いかける

身体が自然に動く


楽しい…今までに経験したことがない胸の高鳴り…


人々の歓声が聞こえる

いつもの舞踏会で聞く乾いた拍手なんかじゃない

感情をそのまま表現したような歓声

「これがボクの舞踏会だよ!最高でしょ?」

五感が刺激される…血が騒ぐってこういうことか…?


歓声と拍手、彼の足音が僕の音楽になる…

踊りながら目が合う


「ねぇ!ボク楽しいよ!今までで一番!」


「…ほんと…?僕もだ…僕も一緒だ!」






それからというもの僕は取り憑かれたように踊りにハマった

勉強の合間、自室、誰も見てない時に踊った

舞踏会で踊るものでも、小さい頃から習っていたものでもない、踊りと呼んでいいのかわからないくらいのものだけど


それから夜は家を抜け出しては彼とともに例の場所へ向かった


とても充実していた
両親の知らない自分だけの場所を持てたのも初めてだし
両親の目を盗んで行動するスリルを味わうのも初めてだった


坊ちゃん最近活き活きしてますね
何かいいことでも?


お手伝いさんに言われた
いいことどころじゃない…言葉では形容できない

そうかな、今僕って活き活きしてるんだ…!


彼と踊る楽しみができたから勉強にも身が入った


馬鹿みたいで反吐が出るほどの舞踏会も晩餐会も楽しかった
この人たちはあの楽しさを知らないなんて…と心であざ笑っていた
自分にはあの場所があると思えるだけでなんでも楽しかった





いつからか後を継がなければいけなくなって
追われるように、半ば拉致に近い形で海外に留学させられた

そうして彼とは疎遠になった


今思えば彼のことはなにひとつ知らない


名前さえも



そして




今どこで何をしているのかも




photo:01













うわああああごめんなさいいいい

久しぶりに投稿したと思ったらこんなのでごめんなさいいいい

テミンのCDの写真とか見てたら思いついてしまって…!

そしてカイテムペンホイホイのpretty boyのステージを見てしまって…

是非この物語の中盤はpretty boyを脳内bgmに!!!wwww

あぁごめんなさい次はまともな記事書きますぅぅぅ