本編更新スタートとなりました。
正式タイトルも決定「大肉球曼荼羅」です。
猫の星の物語をお楽しみください。
 
画像作品は「天つ風かろやかに 弥栄!!」を拡大したもの、令和を祝う猫達が踊っています。
 
《大肉球曼荼羅 第1章 天使ロドニア》
 
地球時間、2016年の夏、ニャンタープライズクルー達は、イクサフィーゴ回収の任務を終え、故郷星カンタスカラーナに帰還しました。
 
猫達は、ステンドグラスがきらめく美しい会場に、歓迎パーティーに招かれ、労いの言葉を受けとります。
 
「猫沢博士、長きにわたるテラ任務と無事なる帰還に感謝いたします」
 
猫沢さんの友猫であり、猫居虎之助の直系子孫、猫居豹之助が、笑顔で迎えます。
 
「私達が不在の間、星を守ってくださり感謝します。イクサフィーゴ、シヴァ2世の様子はどうですか?」
「初代シヴァの制御力のお陰で、2世のカルカナル種子の芽の発育は止まっていますが、テラからのカルカナルエネルギー増大の危機により、若干、危ない状態です…」
「テラに行ったイクサフィーゴ達が、稼働し始めましたので、共鳴完了したら、大きな危険は免れると思います」
「だと、ありがたい…しかし…」
 
猫居博士は、曇った表情を見せ、肉球の上に、小さなホログラム映像を映しながら、
 
「この子を知っていますか?」
「…知っています。話題の子でしょ?アクア操縦士が大ファンでしてね、しょっちゅう歌いながらスキップしてるので、覚えてしまいましたよ…」
 
猫沢さんは、苦笑いし、スッとサビ部分を口ずさみました…
意外にも彼は、とても歌が上手いのです。高音域も楽々再現し美しいメロディ、一瞬、会場の皆が振り返ります。
 
「やっぱり歪んだ…」
 
猫沢さんは、かき消すように自作のメロディを、口ずさむと…
 
「戻った…」
「やっぱり、気づいていらしたんですね…?」
「とうの昔にね…」
 
猫沢さんは、何に気づいていたのか?周りにいた猫達には、さっぱりでした。
 
「あの子は、悪魔です…」
 
それを耳にしたアクア操縦士が、血相を変えツカツカと、猫沢さんの前にやって来ると…
 
「猫沢博士ひどい!!!ロドニア君は天使です!!」
「これは失敬」
 
猫沢さんは、涼しげな表情で、アクア操縦士に、ケーキを差し出しました。
 
「これは、ロドニア君をイメージして作ったケーキだそうですよ。どうぞ」
「え!!ホント!!!」
 
彼女は、目をハートにして、天使の羽の飴細工が乗った、ラベンダー色のケーキを手に、去っていきました。
 
「やれやれ、猫居博士、このケーキを作った職猫も、彼の大ファンだそうですね…?」
 
テーブルに立て掛けられた紹介文を、チラリと目を通していました。
 
「そうなんです。どうしても、このケーキを皆に食べてもらいたいと差し入れと言う形で、持ち込まれた物なんですよ。なんでも、最近、この子の事務所に掛け合って、商品化にこぎ着けたそうです」
「ふーん…」
 
猫沢さんは、いぶかしげに、ケーキを眺め、一口運んでみました。
 
「!!!!!?これは…」
「猫沢博士、どうかしましたか?」
「あの物質の味がする…なぜ、この中に…」
「え?私は、何も感じませんでしたが…」
 
何事もないように、口にふくんだケーキを、紙ナプキンに吐き出し、残りのケーキを静かにΣ‐41に手渡しました。
(Σ…後で分析する)
(はい)
 
「あ、お持ち帰りの容器、持ってきます!」
 
何かを察した猫居博士は、慌てた様子で、会場の係に声をかけ、残りわずかになったケーキを、スッとテーブルから引きました。
 
「あれ?ロドニア君のケーキは?」
「残念、あっという間になくなってしまいましたよ。すごい人気ですね」
 
素知らぬ顔で答える、猫沢さん
 
「なんだースッゴク美味しかったのに~!!もっと食べたい食べたい食べた~い!!!」
 
地団駄踏むアクア操縦士の表情を、見ていて、何かを思い出した猫沢さんの目に飛び込んできたのは、学生時代によく食べていた(食べさせられた)お饅頭…しかも紹介文には「隣のケーキとご一緒に(≡^∇^≡)」と、メッセージが…
 
「替わりにトルソ饅頭をどうぞ、栄養豊富で美容に良いんだそうですよ」
「美容に良いですって󾬆いただきます!」
 
猫沢さんの肉球から奪い取るように、受け取ると、一口でぺろり、数分すると、トロンとしていた目元が、いつものクールビューティーに戻り、何もなかったように談笑を始めていました。
 
「猫居博士…今の彼女の変化に気づきましたか?」
「はい…まるで強い刺激物を摂取し興奮状態に陥っているように見えました。あの職猫の店を調査させます…」
「隣にあった饅頭の中には、その刺激物を中和させる物が入っている。今では見かけないお菓子だが…これは…猫居くん達が手配したのですか?」
「いえ、花音さんからの差し入れです。私は、こちらを先に食べてから、ロドニアケーキを食べたので、大丈夫だったのですね…」
 
猫居博士は、胸を撫で下ろしました。
 
猫沢さんは、ニャインの瓶を片手に、バルンドレスに身を包んだ彼女の席へ、向かいました。
 
「花音さん、注ぎましょう」
「あら!猫沢博士!」
 
花音さんは、ビックリしながらも、注がれるニャインを眺めていました。
 
「ありがとうございます」
 
ニコニコほろ酔いの花音さんに、猫沢さんは、トルソ饅頭を片手に語りかけます。
 
「花音さんは、あのケーキの事をご存知だったのですか?」
「…はい…」
「なぜ?」
「私達の業界の情報網のお陰です。彼女の店が、違法物質に手を出したと言う噂が流れて来ていたんです…それで、このパーティーに新作を差し入れすると聞いて、私は、急いで、お饅頭をこしらえました」
「花音さんは、彼女のケーキを食べましたか?」
「はい、何が入っているかも、だいたい分かりましたした。幸い微量で、食べても、すぐに影響が出ない物質ですが…アクアさんの様子が…」
「彼女の反応は、激しいですね…」
 
二人は、すっかり普通に振る舞うアクア操縦士を見つめます。真っ赤なドレスが、ひときわ目を引きます。
 
猫沢さんの隣に、いつのまにか、猫谷エンジニアが座っていました。
 
「わ!猫谷!」
 
猫沢さん、しっぽがモワモワ
 
「驚くなよ」
「驚くよ󾬆」
「あの例の子猫の事、気づいたか?」
「あぁ、もちろん…」
「さすが専門分野!今、私の部下達が、あの子猫の事務所の大元を調べている」
「さすがだな…」
「あの歌声を聞いただろ?あいつぁーとんでもないモノを隠し持ってやがる…」
 
猫沢さんと猫谷エンジニアが、コソコソと話してると、真横で、花音さんが、不思議な表情で見つめます。
 
「花音さんも、捜査に協力してくれますか?」
「勿論、私の情報網がお役に立ちますね」
 
花音さんは、調理師であり菓子職猫、この分野では知る猫ぞ知る猫なのです。
彼女が作った饅頭は、地球時間300年前から作られている、伝統のお菓子、30年位前迄は店頭で買う事が出来たのですが、時代と共に廃れ、姿を消してしまいました。また、ふつふつと、復活の兆し…いえ、花音さん自身が復活させたのです。
 
「猫沢博士、この、お饅頭、お嫌いでしょ?」
 
花音さんは、ニッコリ微笑みました。
 
「あぁ、嫌いな食べ物No.3ですよ。でも…この饅頭のお陰で、私は命を救われたのです。あなたのお婆様やお母様に感謝します」
 
そう言って、トルソ饅頭を頬張る猫沢さん
 
「今、食べてみると、結構おいしいんですね…懐かしいです」
「あの頃と同じレシピですよ」
 
花音さんは、ニコニコしながらニャイングラスを見つめました。
 
帰還歓迎パーティー会場の外には、この時代には似つかわない古い型の黒塗りの高級マシンが一台、たたずんでいました。窓越しからは、シルクハットを被った紳士らしき猫の姿がチラリと見えると…
 
「…おかえり…坊や達…」
 
ギラリと光る瞳とハイトーンな声が、アンバラスさを醸し出し、ただならぬ雰囲気…彼は一体、何者なのか…マシンは、音もなく静かに会場から去っていく姿を、猫庭博士は、会場の窓越しから見つめていました。
 
「あのマシン…どこかで見た気が…」
 
 
(つづく)
 
  (※このブログでは、ブログ小説【猫沢さん作品[幻想の魚の秘密]】SF物語を展開中です。
 
そんな楽しい猫の星の世界観第6弾を、東京.高円寺[猫の額]さんでの個展にて発表いたしました。
 
猫沢さん作品の挿絵のポストカードは[猫の額]さんでも購入出来ますよ(^O^)
 
※この猫物語は、私の好きなミュージシャン平沢進氏の楽曲をBGMに流しながら浮かんだインスピレーションを元に綴り上げる実験的SF物語制作の一環です)
 
(※ このblog内の画像や文章を無断で転載等をする事は、ご遠慮下さい)