生活保護の本 第4章2 | 茶々丸的生活

生活保護の本 第4章2

〈指導に従わない人の場合〉

(茶)生活保護を受けているのにケースワーカーが言ったことに従わない人は多いんだよね。そういう人はどうすべきだと思う?

(彩)言うことを聞かないのだったら、すぐに生活保護を廃止するんじゃないの?

(茶)生活保護って、現在、生活に困窮しているっていう人が受けているものなんだよね。だから、言うこと聞かないからと言って簡単には生活保護を廃止できないし、廃止すべきでもないんだよ。

(彩)じゃあ、どうやって言うことを聞かせるの?

(茶)生活保護法の 27条には、『保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導または指示をすることができる。』って書いてある んだけど、ケースワーカーが口頭で指導しても言うことを聞かない場合は、この27条に基づいて、文書で指示をするんだよ。なお、生活保護法62条には、被 保護者がその指示に従う義務があると書いてあり、そして、その義務に違反した時は、保護の実施機関は、保護の停止又は廃止をすることができる」と書いてあ るんだ。また、停止又は廃止の処分をする場合には、その被保護者に対して弁明の機会を与えなければならないと書いてあるんだよ。

(彩)ということは、口で言うこと聞かない被保護者には文書で指導指示をして、それでも言うことを聞かなかったら、弁明する機会を与えた上で、停止か廃止をするってことなのね。

(茶)その通り。一般的には、まず停止をして、それでまた、文書で指導指示をして、それでも言うことを聞かなかったら廃止するってことになるんだよね。

(彩)停止と廃止の違いは?

(茶)停止は、一時的なものだね。福祉事務所が停止解除すれば、また、保護を簡単に受けられる。でも、廃止になったら、保護を受けようと思ったら再申請して、また、保護の要否を福祉事務所が判定することになるね。

(彩)生活保護を廃止されたら、あきらめて自立する人が多いんじゃない?もし、再申請しても文書指示に従わないで廃止まで行ったら、受付けないんでしょ?

(茶)あきらめて申請しない人もいるね。でも、皆が皆、そうじゃないんだよ。福祉事務所としては再申請したいんだったら、させなくてはいけないし、受付もしなくてはいけない。

(彩)受付するにしても、文書指示したことに従わないと、開始はしないんでしょ?

(茶)指導に従わな いのだったら、開始できないと言えば、普通は言うことを聞くだろうし、そうなれば開始にすると思うよ。でもね。新規申請者に対しての保護を開始しない場合 は理由がいるよね。収入が最低生活費を上回っているのなら、もちろん、却下だけど、収入が最低生活費を下回っている人を却下する場合は、調査を拒んだり、 妨げたり、忌避したり、検診命令に従わない場合に限られるんだよ。これは法28条に書いてあるんだけどね。新規申請者は被保護者じゃないから、福祉事務所 の指導に従わなければいけないことはないんだよ。指導に従う義務ができるのは、保護開始になってからなんだ。

(彩)結構、面倒くさいのね。

(茶)例えば、指導 指示の内容が『求職活動をしなさい』というものであれば、新規開始時点で就労可能な健康状態だったら、就労できるのに求職活動をしないということで、能力 不活用とみなして却下するというのは可能です。でも、例えば、『子供を学校に通学させなさい』と文書指示したんだったら、調査でも検診でもないから、それ を理由として却下するというのは、法的には難しいだろうね。とりあえず開始して、再度、口頭で指導指示→指示に従わない→文書指示→指示に従わない→弁明 の機会を与える→停止→文書指示→指示に従わない→弁明の機会を与える→廃止・・・・・という感じになってまた、再申請となりかねない。

(彩)堂々巡りじゃない!ほんと、面倒くさい感じね。

(茶)だから、文書指示なんてしても、面倒くさいだけという場合もあるんだよ。再申請しても、言うことを聞かなければ却下できるというのなら効果はあるけどね。

(彩)じゃあ、却下できないという場合はどうするの?

(茶)文書指示なん かしないで、保護費を支給するのを差し止めて、言うことを聞くまで支給しないっていう手が一番、効果があるんだよ。お金がなくなれば、生活できないし、言 うことを聞かないと、再申請もできないでしょ。まあ、禁じ手みたいなもんですが、これが即効性がある。

(彩)確かに効果ありそうね。汚い手口だけど。

(茶)話は変るけど、最近、いろいろな病院に行って、向精神薬を重複してもらう人が増えているんだよ。

(彩)そんなもの大量にもらってどうするの?

(茶)薬物中毒で自分が飲むという人もいるけど、ネットなどで転売したり、暴力団組織に売り渡したりする例もあるみたいだよ。

(彩)それは問題じゃない。そういう場合は、文書指示するの?

(茶)まず、通院している医者全てに事実関係を伝え、1つの病院以外は処方しないように伝えるというのが原則だけど、相手も医者を変えてくるから、いたちごっこになるんだよ。最終的に言うことを聞かなかったら、文書指示になるけど。

(彩)そんな感じだったら、ケースワーカーも大変ね。

(茶)そうなると手 間がかかるので、被保護者に口頭で重複して向精神薬をもらわないよう指導するとともに、今後、複数の医療機関から不必要な薬をもらえば、本来それは、必要 のない医療費だから、医療費の過払になるので、その医療費を毎月の保護費から返還させると強く言えば、よほどの人じゃない限り止めるんだよね。

(彩)重複してもらうと損をするんだよって教えるのね。

(茶)そう、これも汚い手口だけど、効果がある。

(彩)そういう汚い手口を考えつくのって、茶々さん、上手いのね。

(茶)最小の努力で最大の効果を得るよう考えてるからね。では、次に不正受給者への対応についてお話しますね。

 

〈不正受給者の場合〉

(茶)不正受給についてだけど、福祉事務所は警察じゃないから、調査はできても犯罪捜査みたいな強力な権限はないんだよ。あくまで、被保護者の同意に基づいて調査するだけ。

(彩)不正受給って、やっぱり隠れて働いているのが多いんでしょ?

(茶)そうだね。稼動年齢層の被保護者で不在がちな人は、不正受給している可能性があるよ。

(彩)そうした場合、どうやって調査するの?

(茶)基本はまず、不在である理由を聞き取るよね。相手は「たまたまいなかっただけ」とか、「親の具合が悪くて介護に行っていた」とか、「具合が悪くて寝ていた」なんて、言うよね。

(彩)そうした理由って、あまり確認できないわね。

(茶)まあ、聞き取りをした感じで、ウソをついてるなあって思ったら、頻繁に訪問をしてみるね。20年くらい昔の話だけど、同一の世帯に月に25日訪問したことがあるよ。全部、いなかったけど。

(彩)日曜日以外毎日じゃない。そうして不在を確認したわけね。

(茶)その世帯は母子世帯だったんだけど、訪問した時に電気とガスのメーターを確認してたね。役場の水道課で水道の使用量も調査した。それから、外に干していた洗濯物も。

(彩)どうだったの?

(茶)メーターは動いてなかったよ。水道も使ってなかった。洗濯物も同じものがずっと干してあった。

(彩)ということは、住んでいなかったの?

(茶)そのとおり。事実を告げて事情を聞いたら、男性ができて別のところで同居しているってことだったね。ということで、生活保護は辞退していただいたね。

(彩)電気、ガス、水道のチェックって効果あるのね。洗濯物も。

(茶)不在がちなと ころをチェックするのに必須調査だね。母子家庭の場合は偽装離婚っていうのもあるから、それぞれの支払いについて、口座支払いになっているか、なっていた らその口座の名義人は誰かをチェックするといいんだよ。離婚しているはずの旦那の名義になっていたりするからね。洗濯物についても、男性のものがないか チェックするといいんだよ。まあ、男物を堂々と干している人は少ないけどね。でも、外に干している人もいることはいるんだよ。男性と同居しているのかと聞 いたら、母子家庭と思われたら防犯上危ないので、男性者を干しているって答えが返ってきたことがあるよ。こういう世帯の場合は、干している洗濯物が干して いる洗濯物が常に変っているかどうかをチェックすると事実関係がわかるよね。

(彩)刑事さんみたいね。

(茶)それだけ生活保護を悪用している人がいるってことだよ。母子世帯でなくても、一人暮らしのはずの世帯に稼動年齢層の子供が入ってきているということもあるね。住民票を異動していたらわかるけど、異動させなかったらなかなかわからないんだよ。

(彩)一人暮らしの人のところに働いている子供が入ってきたら生活保護がいらないんじゃない?

(茶)そうだね。いらなくなる場合が多くなる。被保護者のところに子供が入ってきたとわかった場合、どうやって調査したらいいと思う?

(彩)同意書をもらって調査するの?

(茶)もらえたらね。基本的には被保護者でない者に対しての調査は本人の同意がないとできないよね。同意書がもらえなかった場合はどうする?

(彩)わかんないよ~!

(茶)被保護者に対し、同居している子供の給与明細書や所得証明を提出するように口頭で指導し、指導に従わなければ、文書指示をして、停廃止ということになるね。

(彩)被保護者が子供に給与明細の提出を頼んでも聞いてくれなかった場合は?

(茶)職権で子供を世帯の中に入れ、被保護者にしてから、子供に対して文書指示をして、言うことを聞かなかったら、停廃止ということになるだろうね。

(彩)なるほど。

(茶)でもねえ、子供が日雇い仕事で収入実態がわからない場合もあるんだよ。そうした場合は、廃止できなくて、むしろ困ったことになるかもしれないね。でも、生活保護は世帯単位が原則だから、基本的には世帯に入れて、増収などを指導していくといくことになるんだよ。

(彩)働いている人だったら自動車も持ってるんじゃない?

(茶)そう、だから自動車の保有も含めて指導ってことになるよね。

(彩)同居なんかはしてなくて、ただいないっていう場合はどう対処したらいいの?

(茶)同意書をもらって、まず、雇用保険の調査をします。雇用保険に加入していれば、加入状況がわかるので、会社の名前もわかるし、雇用保険料から大体の収入も推測できるんだよ。そして、会社名がわかったら、その会社に照会すればいいんだよ。

(彩)雇用保険に入っていて、会社名もわかってるのに『自分は働いていない』ってシラを切る人っているんじゃない?

(茶)いるいる!そうした場合はね、会社に履歴書の写しを送付してもらうんだよ。それを見せたら大抵の人は降参するね。

(彩)ということは、それでも、降参しない人もいるんだ!

(茶)その通り。も うここまで行くと犯罪者だね。立派な詐欺だよ。当然、警察に告発することも検討すべきだね。とは言え、告発までは普通しないから不正受給による過払を算定 し、徴収金を一括で支払うよう命令書を出して、支払うか、不正受給を認めて分割で納入するという書類に署名押印をするまで保護費を出さないようにするね。

(彩)そんな人間もいるんだ!

(茶)生活保護というのは、厚生労働省のお役人が性善説に立って作った制度なんじゃないかと思うよ。悪用する人にとっては、すごくやりやすい法律なんだよね、生活保護法ってのは!

(彩)尾用保険の加入をしていない人で働いているだろうなあって思う人はどうするの?

(茶)そういう人は預貯金調査をして出入金の明細をもらうといいんだよ。そうすると、給与振込みがあったりして、会社名がわかるからね。

(彩)なるほど。

(茶)預貯金の出入 金明細は、生活実態がわかるよ。車を持ってないはずなのに自動車保険の掛け金の引き落としがあったりするしね。現状では調査方法はこの程度のものでしかな いね。携帯電話の利用記録とかがわかればいいんだけど、今のところ、電話会社の協力は得られていないんだ。協力が得られると実態がかなりわかるんだけど ね。では、次に被保護者の自立の促進について、述べたいと思います。

 

被保護者の自立の促進・・・省略