この物語は、実話をもとにしていますが、登場人物は、すべて仮名となっていますのでご了承ください。
跡継ぎ(前編)はこちら
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それから20年、戦争も終わり、正男は努力して、比較的安定した職につき、家庭をもちました。
自分の生活だけでも大変でしたが、父親も母親も頼りにならず、弟や妹の学費、就職や結婚の世話、一生懸命真面目に働いたけれど お金はいくらあってもたりません。
正男には 一人娘の「晴子」がいました。そして不思議なことに 5人の妹は嫁ぎ先で男の子を産みましたが、4人の弟は全員結婚しないかしても男の子が産まれません。
そして晴子が小学生のころ、自分の部屋でウトウトしていたとき、夢なのか現実なのか、目の前に、白い着物を着た、昔風の髪を結った女性があらわれてこう言いました。
「晴子は跡継ぎにならない」
晴子はなんのことかわかりませんでしたが、白い着物と「跡継ぎにはならない」という言葉だけが記憶に残りました。
しかし夢かもしれないので、親にも誰にもこのことは話しませんでした。
富田家は正男の頑張りもあって、少しは余裕ある生活をとりもどしましたが、男の子は妹の子供ばかり。苗字が違うので跡継ぎにはなりません。
正男はもう養子を迎えるつもりはなかったので晴子は嫁に行きました。
晴子の夫は三男だったので、もし男の子が2人産まれたら、1人が富田家を継いでくれたらいいし、父親の破天荒で苦労したので、正男はもう家の跡継ぎへの執着はあまりありませんでした。
晴子もまた、結局女の子を1人しか産めませんでした。
富田家は男子に恵まれない。周囲ではそう噂し、晴子もまた、子供のころに見た女性をよく思い出しました。
「あれは、きっと富田の本妻さん、勝子さんではないかしら?」
どんな顔か 全然知らないし、夢で見たとき顔が見えないので、想像しかできないのですが、晴子はずっとそう思っていました。
そして20年の結婚生活でしたが、晴子は離婚し独身になります。
母親は実家の姓である「富田」に戻ることを希望しましたが、晴子は、なぜか旧姓には戻りませんでした。
「勝子さん」の意向に同意する自分がいたのも確かです。
血はつながっていないけれど、見たことのない勝子さんに妙な親しみを覚えていました。
時々、そばにいるような錯覚さえ感じていました。
離婚して何年か後、ある人と知り合いました。
その人は、見えないはずのものが見えてしまうのですが、その能力は公表していませんでした。
その人曰く、見ることはとても疲れてしまうし、あまり繁昌に見ると神経がおかしくなってしまうから・・・。
しかしながら、晴子と話しているときに、こう言いました。
「後ろに白い着物を着た女性がいるね、髪型は昔風に結っているなあ。
年齢は40代くらいかも? 守護霊は2人いるけど、そのうちの1人だよ」
晴子はとても驚きました。誰にも言わずにずっときたのに、白い着物の女性が自分の後ろにいるなんて。
やはりその女性は自分のそばにいたのだ。
それでますます勝子さんの存在を信じるようになりました。
そして正男が亡くなり、晴子の母親は、誰も跡をとらないことを親戚に確認すると、お寺のほうにその旨を伝えました。
永代供養をしてもらうことにして、富田の先祖は高野山に移されました。
こうして名家だった 「富田家」は跡継ぎがないまま、幕を閉じます。
数年後、久々に晴子が実家に行ったとき、
母親が見せてくれたアルバムの中に古い古い写真を見つけました。
そこには 若き日の蝶子と 晴れ着を着た幼児の正男 そして正男の妹を抱く勝子が写っていました。
富田家がまだお金持ちだったとき、正男の妹のお宮参りのときの写真です。
いかにもお坊ちゃまとして写っていた一番いい時代の正男にも感動しましたが、晴子には、勝子の顔を初めて見れて「やっと会えた!」と思いました。
勝子は、血の繋がらない孫と一緒ではあったけれど、
しっかりした眼差しで、堂々と写っていました。
その写真を持って、晴子は不思議なものが見える友人に見せました。
「この赤ちゃんを抱いてる人が 私の後ろにいる人?」
友人は しばらく凝視してましたが、こう答えました。
「いや、違うね。この赤ちゃん抱いた人は、富田の家には執着もないし、恨みもあまりない。
裕福な暮らしができて自分の人生を自分なりに生きて、満足してる。だから違う。
あなたの後ろにいる人は、この蝶子さんに似てる」
晴子は あっと思いました。蝶子に似てる・・・
そうだ、富田の当主に捨てられた蝶子の実の母親だ!!
蝶子を取り上げられて姿は消したけれど、やはり気になって孫の正男の娘である晴子を守るため、後ろについたのだろうか。
富田の家に恨みはあったけれど、自分ではなにもできず、それでも因果応報なのか
結局、自然の流れで富田家は消えていったことになります。
晴子に「跡継ぎにはならない」と言ったのは、もしかしたら 「跡継ぎにならないで」と言いたかったのだろうか。
本当のところは今でも、わからないけれど、
晴子の仕事机には、幼い正男と蝶子、勝子が並んで写っている写真が大事に飾られています。
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