ジキです。
前回の続きです。
この内容のオリジナルの動画「天然痘の真実」、
及び、動画のナレーションの文書のリンクを示しておきます。
天然痘と水疱瘡を区別する
それでは天然痘と水疱瘡の区別はどうかを見てみましょう。
1979 年に『Smallpox and the evolution of ideas on acute (viral) infections. (天然痘と急性(ウイルス)感染という考えの進化)』という論文が、医学史雑誌に掲載されましたが、次のように書かれています。
In trying to assess the infl uence wielded by smallpox on social and political history, or just to determine the chronology of the disease, one is hampered by the inability to identify the disease with any degree of certainty from extant descriptions before A.D. 900, and sometimes much later. The virus of smallpox is known to vary in virulence[3], and inaccurate or inadequate descriptions of the clinical picture off er rich opportunities for confusion with a number of other fevers accompanied by rashes and pustules. Dixon[4] has provided a sober account of the known early history of the disease, and of the diffi culties inherent in attempts to identify it in retrospect. He points out that the abundant lesions on the face and body of the mummifi ed Rameses V, who died about 1100 B.C. of an acute infectious disease, are very similar to those of malignant smallpox. It is therefore curious that there is no mention of smallpox in Hippocrates’ otherwise copious volumes of clinical descriptions, nor elsewhere in the Greek and Roman medical literature according to Dixon, although some other authors have attempted to identify destructive epidemics which contributed to the decline of the Roman empire in the third and fourth centuries as outbreaks of smallpox[5].
Nor does contemporary terminology in any way clarify the issue. Even when the term “variola” first appeared[6] it was not accompanied by a clinical description, and we have no way of knowing whether or not it referred to smallpox. For several hundred years after the introduction of the terms “variola” and “morbilli”, the diseases they refer to can in no certain way be distinguished as smallpox and measles, respectively, on the basis of the inadequate clinical descriptions. In the case of smallpox, the confusion with chicken-pox further clouds retrospective epidemiological considerations[7].
(邦訳)
天然痘が社会史や政治史に及ぼした影響を評価しようとする場合、あるいは単にこの病気の年代を決定しようとする場合、西暦 900 年以前、時にはそれよりもずっと後の記述から、この病気をある程度確実に特定することができないことが問題となる。天然痘のウイルスは病原性にばらつきがあることが知られており[3]、臨床像の記述が不正確であったり不十分であったりすると、発疹や膿疱を伴う他の多くの熱病と混同される可能性が高い。ディクソン[4]は、この病気の初期の既知の歴史と、振り返ってこの病気を特定しようとする試みに内在する困難について冷静な説明をしている。彼は、紀元前 1100 年頃に急性伝染病で死んだラメセス 5 世のミイラの顔と体にある豊富な病変が、悪性の天然痘のそれと非常によく似ていることを指摘している。それゆえ、ディクソンによれば、ヒポクラテスの膨大な臨床記述にも、ギリシア・ローマの医学文献にも天然痘に関する記述がないのは不思議である。しかし、他の著者の中には、3 世紀から 4 世紀にかけてローマ帝国の衰退の原因となった破壊的な伝染病を、天然痘の発生と特定しようとした者もいる[5]。
同時期に存在した用語で問題は明らかにはならなかった。ラテン語で天然痘を意味する「variola」という用語が初めて登場した時でさえ[6]、臨床的な説明はなく、それが天然痘を指すのかどうか知る術はなかった。「variola(天然痘)」と「morbilli(ラテン語で小さい麻疹)」という用語が登場してから数百年間、臨床的記述が不十分であったため、これらの用語が指す病気をそれぞれ天然痘と麻疹と区別することはできなかった。天然痘の場合、水痘との混同が遡及的な疫学的考察をさらに困難にしている[7]。
この文献によると、天然痘と水疱瘡を区別することにした最初の人物はウイリアム・ヘバーデンで、1767 年のことでした。彼の前には、そう考える人は、誰もいませんでした。水疱瘡(ラテン語で varicella)という言葉は、長い間使われています。ラテン語で天然痘を意味する variola から派生した言葉で、症状の軽い天然痘に使われた言葉です。ウイリアム・ヘバーデンの天然痘と水疱瘡を区別するという考えは、100 年後の 1900 年代まで受け入れられませんでした。その当時でさえ反論する医師や研究者はいました。
彼らは、天然痘と水疱瘡を同じ病気の異なる発現であると考えていました。ヘバーデンが区別したのは、一般市民が水疱瘡と天然痘を混同し、天然痘に免疫があるから天然痘ワクチンは不要だと勘違いしないようにするためでした。ヘバーデンは、この 2 つが異なるウイルスによる異なる病気だという証拠を示しているでしょうか。当時はウイルスの存在を見る事はできず、病気との関りも推測でしかなく、確実な証拠に基づいたものではありません。それは今も同じです。
ウイリアム・ヘバーデンは、天然痘と水疱瘡の臨床上の違いについて 1767 年に『On theChicken-Pox(水疱瘡について)』を出版しました。これによると、これらの病気には、次のような違いがあります。
- 水疱瘡は先行する病気や前駆症状はなく発生しますが多くの場合、天然痘と同様、次の症状が見られることがあります。悪寒、倦怠感、咳、不眠、移動性の痛み、食欲不振、3 日間の発熱など。
These pocks break out in many without any illnefs or previous flgn ; in others they are preceded by a little degree of chillnefs, lafl itude, cough, broken deep, wandering pains, lots of appetite, and feverifhnefs for three days.
(邦訳)
これらの痘瘡は、多くの場合、何の病気や前兆もなく発生するが、その前に、少し程度の悪寒、弛緩、咳、深部破裂、徘徊痛、食欲不振、発熱が 3 日間続くこともある。
- 水疱瘡の膿疱のサイズは天然痘と同じですが、天然痘より小さいこともあります。
In some patients, I have observed them to make their fi rst appearance on the back, but this perhaps is not condant. Most of them are of the common size of the smal!-pox, but some are less.
(邦訳)
患者によっては、(水疱瘡が)背中に初めて出現することもあるが、これは恐らく、典型的なものではない。そのほとんどは小痘の一般的な大きさであるが、それ以下のものもある。
- 化膿期には黄色みを帯びた液体が見られます。これは天然痘によく似ています。
On the fi rst day of the eruption they are reddish. On the second day there is at the top of most of them a very smali bladder, about the size of a millet seed. This is sometimes full of a watery and colourless, sometimes of a yellowish liquor, contained between the cuticle and skin. On the second, or, at the farthest, on the third day from the beginning of the eruption, as many of these pocks, as are not broken, seem arrived at their full maturity ;
and those, which are fullest: of that yellow liquor, very much referable what the genuine small-pox are on the fi fth or sixth day, especially where there happens to be a larger space, than ordinary, occupied by the extravasated serum.
(邦訳)
発疹初日は赤みを帯びている。2 日目には、そのほとんどに、粟粒ほどの大きさの非常に小さな膀胱ができる。この膿疱は、時には無色透明の、時には黄色っぽい液体で満たされており、上皮と皮膚の間に含まれている。発疹が始まってから 2 日目、あるいは最も遠いところでは 3 日目には、破れていないこれらの痘痕の多くが完全に成熟しているように見える。黄色い液体が最も充満している痘痕は、5 日目か 6 日目に、特に、滲出した血清が通常よりも大きな空間を占めているような、本物の天然痘と非常によく似た状態になる。
- ヘバーデンは水疱瘡と天然痘の違いとして、水疱瘡の発疹は跡が残らないと言っていますが、引っかき過ぎたり、発疹が顕著なものである場合は、天然痘と同様に皮膚に潰瘍ができることがあると認めています。
The inflammation of these pocks is very small, and the contents of them do not seem to be owing to suppuration, as in the small-pox, but rather to what is extravasated immediately under the cuticle by the serous vessels of the skin, as in a common blister. No wonder therefore that this liquor appears so soon as on the second day, and that upon the cuticle being broken it is presently succeded by a fl ight scab : hence too, as the true skin is so little aff ected, no mark or scar is likely to be left, unless in one or two pocks, where, either by being accidentally much fretted, or by lome extraordinary sharpness of the contents, a little ulcer is formed in the skin.
(邦訳)
これらの疱瘡の炎症は非常に小さく、疱瘡の中身は天然痘のような化膿によるものではなく、むしろ一般的な疱瘡のように、皮膚の漿液性血管によって上皮のすぐ下に滲出したものであるようだ。したがって、この体液が 2 日目にはすぐに現れ、上皮が破れると、すぐに飛沫状のかさぶたになるのも不思議ではない。したがって、真皮はほとんど侵されないので、跡も傷跡も残らない。ただし、1 つか 2 つのポツポツには、偶然によくもまれたり、内容物が異常に鋭くなったりすることによって、皮膚に小さな潰瘍ができることがある。
- ヘバーデンは水疱瘡は 2 つの点で天然痘と異なると言っています。化膿期までの期間とかさぶたの見た目が、主な違いだと述べています。
The principal marks by which the chicken-pox may be distinguished from the small-pox, are,
(1) The appearance on the second or third day from the eruption of that vesicle full of serum upon the top of the pock.
(2) The cruft, which covers the pocks on the fi fth day ; at which time those of the small-pox are not at the height of their suppuration.
(邦訳)
水痘を天然痘と区別するための主な特徴は以下の通りである、
(1) 2 日目または 3 日目に、痘痕の上部に血清でいっぱいの小水疱が出現すること。
(2) 5 日目に痘痕を覆うかさぶた;この時、天然痘の痘痕は化膿の最盛期ではない。
- ヘバーデンによれば外国の医事文筆家は、「水疱瘡」という言葉をほとんど使わず、彼の国の医事文筆家は名前にしか言及していません。
Foreign medical writers hardly ever mention the name of this distemper ; and the writers of our own country scarce mention any thing more of it, than its name.
(邦訳)
外国の医学者は、この病気の名前についてほとんど触れていないし、わが国の医学者も、その名前以上のことにはほとんど触れていない。
- ヘバーデンは2つの病気が非常によく似ているので、天然痘ではなく水疱瘡の予防接種を受けた人もおり、経験不足の診断者によって天然痘と間違われることがあると言っています。
From the great similitude between the two distempers, it is probable, that, instead of the small-pox, some persons have been inoculated from the chicken-pox, and that the distemper, which has succeded, has been mistaken for the small-pox by hasty or unexperienced observers.
(邦訳)
この 2 つの感染症が非常によく似ていることから、天然痘の代わりに水痘を予防接種された人がいて、その後に発症した病気が、性急な観察者や経験の浅い観察者によって天然痘と間違えられた可能性がある。
- 多くの外国人は天然痘特有の特徴に注意を払っていません。特に化膿期までの期間に注意が払われないので、2つの病気を同じとみなすことを疑問視すべきだと主張しています。
Many foreigners seem so little to have attended to the peculiar characteristics of the small-pox, particularly the length of time, which it requires to its full maturation, that we may the less wonder at the prevailing opinion among them, that the same person is liable to have it several times.
(邦訳)
多くの外国人は、天然痘の特異な特徴、特に完治までに要する時間の長さにはあまり関心がないようで、同じ人が何度も罹患しやすいという意見が彼らの間で一般的であることを不思議に思わない。
- ヘバーデンはもっと悪性の水疱瘡もあり、天然痘と間違われていると言っています。
There is sometimes seen an eruption, concerning which I have been in doubt, whether it be one of the many unnoticed cutaneous diseases, or only, as I am rather inclined to believe, a more malignant sort of chicken-pox.
(邦訳)
ときどき発疹が見られるが、これについては、多くの皮膚病のうちのひとつなのか、それとも、むしろ私が信じたいように、より悪性の水疱瘡のようなものなのか、ずっと疑問だった。
ヘバーデンの説明を吟味しましたが、何故彼が2つの別の病気だと信じていたのかハッキリしません。症状に実質的な違いがあることは示していません。示しているのは微妙な違いのみです。彼の最良の説明は、膿疱が皮膚に現れてから 2、3 日後の膿疱の見た目と、5 日目に膿疱上にかさぶたができるかどうかです。
膿の大きさは天然痘と同じであり、膿疱に黄色の液体が含まれることも天然痘と同様だと認めていますし、水疱瘡の発疹は天然痘のように跡が残らないと言いながら頻繁に引っ搔いたり、酷かったりすれば、残ることがあるとも言っています。彼は、水疱瘡と天然痘を同じ病気だと言う専門家が多くいたと言っています。また症状が非常に似ているため、水疱瘡の多くの症例が天然痘と誤診されたとも言っています。彼は立証責任を果たせなかっただけでなく、水疱瘡と天然痘が同じ病気だと証明したようなものです。彼が決定的な区別を出来なかったことが、その後、100 年以上経っても、多くの人々がこれらのほぼ同じ症状を区別したがらなかった理由かもしれません。
図8: 天然痘の膿疱と水疱瘡の膿疱は区別がつかない
1900 年代初期に、彼の考えが受け入れられるようになると、医学雑誌がその 1 章をさいて、水疱瘡と天然痘の区別がいかに困難かを記載しました。医師は細かな違いを見る必要がありました。発疹の分布、膿疱の進行速度、膿疱の深さ患者の具合などです。
これは多くの医師の直感に反していました。彼らはこれらは同じ病気であり、膿疱の進行速度と発熱の期間の違いから、まったく別の診断をすることはできないと考えていました。他の医師は批判的に考える事をせず、2 つは異なる病気だと信じていましたが、診断が困難であることは記録していました。
例えば、1923 年に英国医師会雑誌に掲載されたこの手紙『MILD SMALL-POX IN THE SUDAN』には、ある医師がスーダンで勤務中に、天然痘と水疱瘡の区別が困難であったことを書いています。引用します。
SIR, — In the BRITISH MEDICAL JOURNAL of December 1st, 1923, there was a leading article on “Alastrim and mild small-pox,” and in the last paragraph you ask for someone to compare epidemics in other countries with the mild form of small-pox recently met with in England.
I regret I cannot do this, but in 1922 I was in charge of a very curious and somewhat extensive outbreak of small-pox, an account of which I included in my annual report for the year ending September 30th, 1922.
I have no doubt in my mind that I have seen an epidemic which has passed through these three stages: (1) indistinguishable from chicken-pox, and that often of a mild type, (2) alastrim, and (3) fi nally typical small-pox.
In the past it has been upheld that chicken-pox and small-pox were but diff erent forms of the same disease, but I think every medical man of the present day, if he takes into consideration the scientific investigations of the last fi fty years, will consider this is a mistaken view, and that the two diseases are separate entities, but, personally having been through this qpidemic, I can fully realize how this view was upheld in the days gone by.
I am now convinced small-pox can appear in such a form that any doctor would diagnose it as chicken-pox, basing his diagnosis on distribution, the appearance in crops, the presence of all stages of the eruption at one and the same tiem, and the absence of severe constitutional or pyretic symptoms, in patients unprotected by previous vaccination. That chicken-pox and small-pox were running concurrently was most carefully considered and ruled out of court. Further, the mild chicken-pox types, in previously unvaccinated persons, though treated with and next to undoubted small-pox cases, failed to take small-pox, and further failed to take vaccination from potent lymph.(邦訳)
1923 年 12 月 1 日の英国医学界雑誌に、「小痘瘡と軽症の天然痘」に関する記事が掲載されていた。その最後の段落に、最近英国で発生した軽症の天然痘と他の国で流行とを比較して欲しいという記述があった。
残念ながら、私にはそれはできないが、私は 1922 年に広範囲に及ぶ軽症の天然痘の興味深い流行に対処した。これについては、1922 年 9 月 30 日を末とする年度の報告に記述している。
私は、次の 3 つの段階を経過する流行に立ち会ったのだと確信している。(1) 水疱瘡と見分けがつかない軽症のもの、(2) 小痘瘡、(3) そして最後に天然痘。
過去には、水疱瘡と天然痘は同じ病気の異なる形態だと考えられていた。だが、現在の医師は誰も、ここ 50 年間の科学調査を考慮していれば、それは間違いで2つの病気は別物だと考えている。だが、この流行を経験して、過去にこの考えがどうして支持されていたのかに気づいた。
天然痘の形態によっては、どんな医師でも水疱瘡と診断してしまうのがあると確信する。(発疹の)分布、見た目、発疹のすべての段階が同時に存在すること、全身症状や発熱がないことに基づき、ワクチンを受けていない患者を診断した場合にである。水疱瘡と天然痘の同時発生は、慎重に考慮され除外された。さらに、軽症の水疱瘡が症例でワクチンを受けていない患者において、天然痘の患者と共に治療されたにも拘わらず、天然痘にならず、さらに効能のあるリンパからのワクチンも成功しなかった。
この雑誌には、別の手紙『The Diff erential Diagnosis Of Small-Pox And Chicken-Pox』も掲載されていますが、これはある医師から、別の医師へのものです。
SIR, — The importance and value of diagnostic signs in varicella cannot be over-estimated at any time, and never so much as now when chicken-pox and small-pox coexist Many so-called distinguishing characteristics are quoted in textbooks, but all of these may fail, and leave one in perplexity. Others are more reliable, such as (a) the absence of lumbar pain, (b) the presence of one or more ellip-tical or oval vesicles, (c) the continued fever after the appearance of the eruption, (d) the fact that the vesicles collapse on being punctured in one place only, showing them to be unilocular.
(邦訳)
水痘の診断兆候の重要性と価値は、軽視されるべきではない。水疱瘡と天然痘が共存する現在では特にである。教科書に多くの特徴的な間違いが記載されているが、どれによっても区別できず当惑することがある。信頼できる特徴もある、(a) 腰の痛みがないこと、(b) 楕円形の水疱が 1 つ以上存在すること、(c) 発疹が出た後も発熱が続くこと、(d) 水泡に 1 箇所だけ穴を開けただけで潰れるので単疱である、などである。
これを読むと何故だろうと疑問に思います。水疱瘡と天然痘が違う病気であるのなら水疱が穴を開けたときに、潰れるかなどの細かい違いを何故見なければならないのでしょう?
1923 年に「THE DIAGNOSIS OF SMALL-POX AND CHICKEN-POX: A CONTRAST(天然痘と水疱瘡の診断:対比)」という記事が、英国医師会雑誌に掲載されましたが、そこに 3 人の子供の写真がありました。天然痘は集団ワクチン接種により根絶したと言われているので、現在であればこれらの子供は水疱瘡と診断されます。
図9: 水疱瘡の症例
図10: 天然痘の症例
1980 年以降、鑑別診断で天然痘を考慮する医師はいません。1923 年には、3 人中 2 人が天然痘と診断されました。この資料『Thinking outside the pox: Chickenpox and smallpox aren’t the same thing, but it took over 200 years to figure that out』(※この記事は現在ネット上に存在しません)には、前述のカナダの診断医ウイルアム・オスラーの話があります。
図11: Thinking outside the pox
引用します。
At the time, however, even physicains, had trouble telling the diff erence. In one famous account of Osler’s skills a dagnostician, he was called in to show his students what had been pronounced by several distinguished physicians at Johns Hopkins to be a severe case of chickenpox in an adult male. Interested, he gathered 30 ot 40 students and doctors, and went to take a look. When the hapless resident pulled back the sheets to reveal the patient’s symptoms, a horrifi ed Dr Osler exclaimed, “My God, Futcher, don’t you know smallpox when you see it?” Isolation measures were immediately put into place, the necessary caccinations administered and potentially disastrous situation was averted.
(邦訳)
しかし、当時は医者でさえ、その違いを見分けるのが難しかったのです。オスラー医師の診断医としての腕前を物語るエピソードの一つに、ジョンズホプキンス大学の著名な医師数名が、ある男性を重症の水疱瘡と診断したものを、彼の生徒たちに見せるために呼ばれた、というのがあります。ウイリアム・オスラーは興味を持ち 30~40 人の生徒を連れて診に行きました。不運な研修医がシーツをめくって患者の症状をあらわにすると、オスラー医師は恐怖のあまりこう叫びました。「なんてことだ、ファッチャー、天然痘だと見て分からないのか?」すぐに隔離措置がとられ、必要な予防接種が行われ、悲惨な事態は避けられました。
このように、経験ある著名な医師の間でも合意していなかったのです
先ほど紹介した 1988 年の WHO の書籍『Smallpox and its eradication(天然痘とその根絶)』には、水疱瘡に関する章『Ordinary – and Flat –Type Smallpox』に次のように書かれています。
Chickenpox
This disease of world-wide occurrence was the single most important infection to be considered in the diff erential diagnosis and was particularly important in three circumstances: in countries in which variola minor was endemic, in vaccinated individuals, and in situations in which chickenpox occurred rather frequently in adults, often as a severe disease, as in several parts of India. For example, in post-eradication searches in India in 1976, 63% of the “suspected smallpox” cases were in fact cases of chickenpox (Jezek et al., 1978e).
In the usual case of chickenpox the nature, distribution and evolution of the rash are quite distinctive (Plate 1.28). The skin lesions in chickenpox are much more superficial than they were in smallpox. They appear in "crops" so that at any time lesions of various ages may be found on the same part of the body and their distribution is "centripetal" (denser on the trunk than the face and extremities) rather than "centrifugal", as in smallpox.
Difficulties arose with severe chickenpox in adults (White, 1978), a disease found especially in some parts of India (Kerala, Tamil Nadu (formerly Madras State), and West Bengal). Indeed, some severe cases of chickenpox in adults were associated with such an extensive rash, including lesions on the palms and soles, that it was impossible to be certain at any stage of the disease as to whether it was chickenpox or smallpox. During the eradication programme, all such cases were regarded as smallpox and appropriate control measures were undertaken.
(邦訳)
水疱瘡
この世界的病気は、鑑別診断で考慮すべき最も重要な感染症であり、特に次の 3 つの状況で重要である:小痘瘡がよく発生する国、ワクチン接種を受けた者、水疱瘡が成人に重度の病気として頻繁に発生する状況だ。インドの複数の地域がその例である。例えば 1976 年の根絶後の調査では、「天然痘と疑われた」症例の 63%が水疱瘡であった(Jezek 他, 1978e)。
通常の水疱瘡の場合、発疹の性質、分布、進展は極めて特徴的である(図1.28)。水疱瘡の皮膚病変は天然痘の皮膚病変よりもはるかに表面的である。それらの病変は「群」のように現れ、様々な過程の病変が身体の同じ部位にみられることがある。また、その分布は天然痘のような 「遠心性」ではなく、「求心性」(顔面や四肢よりも体幹に密集している)に分布している。
成人の重度の水疱瘡は(診断に)困難が生じた(White, 1978)。特にインドの一部の地域(ケララ州、タミル・ナードゥ州(旧マドラス州)、西ベンガル州)で見られた病気では困難であった。実際、成人で見られた重症の水疱瘡では発疹が広範囲で、手のひらや足の裏の病変を含む発疹を伴い、どの段階でも水疱瘡なのか天然痘なのかを確信することは不可能だった。根絶プログラムの実施中は、それらの症例は、すべて天然痘と診断され適切な防疫処置が施された。
このように 1767 年にウイリアム・ヘバーデンが、水疱瘡と天然痘の鑑別診断を作成するまでは、水疱瘡のすべての症例は天然痘と診断されていました。1900 年代初期になって初めて医師たちが、水疱瘡と天然痘を区別し始めたのです。1980 年代に天然痘が「根絶」されてからは、以前は天然痘と呼ばれていた症例が、水疱瘡やその他の病名で呼ばれるようになりました。
これで天然痘がどうやって「根絶」されたかわかったと思います。水疱瘡は 1767 年に作られたラベルに過ぎず、100 年前になって、ようやく天然痘と呼ばれていた症状に使われるようになりましたが、これはワクチンが成功であったと民衆に信じさせるためでした。
次回は
今回は、
天然痘と水疱瘡との区別について紹介しました。
同じ症状が、
区別がされる以前は天然痘と診断され、
その後区別するのに苦労し、
天然痘の根絶後は水疱瘡と診断していたことが分かります。
次回は、
天然痘とサル痘の区別について紹介します。
今回はここまでにします。
最後までお読み下さりありがとうございました。
また、お会いしましょう
したっけねー