温度が下がると、味が変わる。
感情も、そうなのかもしれない。
さっきまで「絶対に許せない」と思っていたことが、冷めたコーヒーを一口すすった瞬間には「まあ、仕方ないか」に変わっていたりする。湯気の勢いに任せて強く沸き立っていた感情も、時間が経つと、自然に輪郭が丸くなっていく。
むしろ、冷めたときにようやく本当の味がわかるのかもしれない。熱いままでは気づけなかった苦味や、少しだけ混じった甘さ。気持ちだって、落ち着いて見つめれば、案外思っていたほど黒くも白くもない。
「なんであんなに怒ってたんだろう」
「どうしてあそこまで焦ってたんだろう」
コーヒーが冷めるころ、ようやく自分の中の“正直な温度”に触れられる。
だから今日は、慌てずに、湯気が静かに消えるのを待ってみる。
冷めたコーヒーの味を確かめながら、少しだけ穏やかな自分に戻れる気がするから。












