鏡の中の自分が、少し重たそうだった。
前髪が目にかかって、顔の半分が隠れていた。
それだけのことなのに、何かを見逃している気がして、
思いきって美容室に行った。
「どうしますか?」
美容師さんの問いに、私は少し迷ってから言った。
「軽く、お願いします。」
──それは髪の話のようで、
たぶん、心の話でもあった。
切られていく髪の毛が肩をすべって落ちるたびに、
いらない感情がひとつずつ、
床に落ちていくような気がした。
鏡の前で新しい自分と目が合う。
空気が、ほんの少しだけ軽い。
見慣れた街並みも、
いつもの電車の窓も、
なぜかいつもより奥まで見渡せる気がする。
髪を切ったら、世界が少し広く見えた。
きっと世界は変わっていない。
変わったのは、私の“視界”の方だ。









