Book Review:『富士日記』

著:武田百合子
昭和39年から51年まで
富士山麓の
別荘での日々を綴った日記。
数年前から、夏になると
なんとな~く読みたくなる本。
んで今年の夏も、手にとってしまった。
日記には、その日食べたもの、買ったものの値段(←物価の違いが面白い)
夫婦の会話などがただひたすら、淡々と書いてあるのだが
この百合子という人が、とにかく魅力的!!
当時にしては、女性でありながら自動車免許を取得してガンガン乗り回し
まるで夫(作家・武田泰淳)の運転手さながら
毎週のように東京の自宅から別荘間を行ったり来たり!
河口湖の花火大会では
車の駐車を巡ってヤクザと掴み合いにならんばかりの大喧嘩をするわ
(「売られたケンカは買わずにはいられない」タイプ・・・。
そんなシーンが多々(^-^;))
近所の湖を、「誰もいないから」と素っ裸で泳ぐわ・・・。
とにかく、あの時代にしてはかなりぶっ飛んだ女性です。
でもそんな行動を夫からたしなめられて「はい。」と素直に聞く百合子がまた、いい。
そう。そんな百合子も夫にはとっても従順なのだ。
「とうちゃんとうちゃん」と慕う姿がとっても可愛いらしい。
ある日、ひとり娘の花子が、家にあった美術全集を知人に貸そうとした。
すると百合子は激怒。
「うちの本でしょう。貸してあげたっていいと思った」という花子に対して
「うちの本ではない。お父さんの本だ。
お父さんの本を私や花ちゃんは見せて頂いているのだからね。
お父さんに黙って貸すことはできないよ。
きちんと挨拶がなければ貸さない。
挨拶があっても貸したくなければ貸さない。」
花子、泣く・・・(苦笑)。。。
徹底的に亭主関白、というか、こういう筋の通し方はかっこいいなあ、と。
(「貸したくなければ貸さない」というのが実に百合子らしいところ(笑))
他にも読みどころといえば
昭和30~40年代の姿が描かれているのが面白い。
まだ当時は道路事情なども悪く、国道を走って別荘に向かう途中
今ではありえないほどあちこちで交通事故が起こっていて
百合子も何度も遭遇している。
年月が経つと、中央自動車道が開通し、百合子も「快適だ」と喜んでいる。
別荘のある河口湖周辺やそこに至るまでの道などは
私もよく通ったり、ちょくちょく訪れる場所なので
現在の状況と比較しながら読めるのも、なかなか楽しい。
私が今年の夏もこうやって、この日記を手にとってしまうのには
やはり百合子も「夏が好きだった」ということがあるかもしれない。
別荘での生活は四季を通して描かれているが
俄然、夏の日記が生き生きしていて
夏好きの私は、汗をかきかき扇風機に当たって冷たい麦茶を飲みながら
そんな富士山麓の夏模様をむさぼるのがたまらないのだ。
7月のある暑い日の日記に、こんな表現がある。
スタンドの顔見知りの男。
「始終通るね。これからは車の中も暑くて楽じゃないねえ」と愛想を言う。
私は夏になりかかるころから盛夏が好きだ。
陽にあたっても、水飲んでも、ごはんを食べても、息をしても、
それらはみんな栄養になって体が吸いとってゆくような感じがする。
でもスタンドの人にはそんなことは言わない。
「そうねえ。暑くてこれからは苦しいねえ」と言った。
そうそうそう!!!!まーーーったく、同感!!!!
この夏の感じ方!そう。私が夏が好きな理由も、まさにこういうことだ。
何をしててもドクドクドク・・・と鼓動を感じるような
「生きてる!」という感じが好きなのだ。
それから
どんなにまわりが「暑い暑い!」と騒ごうが、私にはあまり関係ない。
記録的な酷暑の今年ではあるが、夏好きで暑さに強い私は
「がははは!すっげえ暑いぞっっ♪♪」ってなところ。
でも人には「暑いですねえ・・・」と合わせておく。
う~~ん、百合子と私、ちょっとしたところで似たところがあるのかも。
そこが何度となくこの日記を手にしてしまう理由なのかもな?
もうすぐ8月も終わり・・・。
「毎年夏が終わるころは『さびしい、さびしい』と滅多やたらにいっている」
という百合子のように
私もここ毎日「さびしいなあ」と、カロンコロンと竹風鈴の音を聞いている。