Book Review:『お月さん』
桐江キミコさんの短編集『お月さん』。12編の物語の主人公たちは皆がみな
とてつもなく物悲しい。
息子の誕生日会に
誰一人友達が来ない、リリ子さん。
昔捨てられた男の葬式に出向き
葬式まんじゅうをほおばる、姫子さん。
女房・娘と別れて暮らし
六畳一間のおんぼろアパートでさめざめと泣く、デンデンムシ。
ほかにも
マミーさんが作る「粉末ジュースの素に水道水、アイスクリームを1さじ落としただけのクリームソーダ」や
天平さんの「いつも前の晩の残りの煮物が入って、ご飯にまで煮汁が染み出した茶色一色のお弁当」・・・
この本に登場する、人物から彼らをとりまくディテールに至るまで
あらゆるものがいちいち物悲しく、せつない。
でも、人の一生なんて
こういうふうに、ちっちゃくって、せせこましくって
せつない事柄の積み重ねなのかも・・・とも思う。
そう思うと彼らが
自分に近い誰かや、はたまた自分自身に重ねて見えてきたりする。
平凡ながらも、つつましく、ともすると何の為に生きているのかも分からずに
それでもみんな、ただただ自分達なりにひたすら生きている・・・。
この本を読みながら
随分昔に見た『志村けんのだいじょうぶだぁ』のコントを思い出した。
当時、通常のコントの中で突然
笑いが一切なしのシリアスな無声劇のコーナーがあったのだ。
音声は、哀愁に満ちたメロディーのオカリナのBGM(多分、宗次郎か何か)だけ。
いろいろなパターンがあったのだが、特に覚えているのは
志村けん扮する老人が
亡くなった妻の通夜でこれまでの人生を振り返るというもの。
子供が産まれた頃や娘の成長、娘の結婚式などが回想風に綴られ
ラスト、老人は妻の亡骸のそばで息絶える、というもの。
ただただ平凡な日々が、淡々と綴られる。
でも、それが老人とその妻の人生の全て。
平凡とは、人生とは・・・どこか物悲しくて切なくて、でもそこはかとなく、美しい。
あの無声劇コントがお好きだった方には
この本は、胸の奥をツンツン突かれてしまう一冊だと思います。