美しい夢を信じて!七夕に願いを





 ちびうさはこの日、楽しそうに机に向かって何かを書こうとしていた。その様子をペガサスはスタリオンレーヴの中から見ていた。

「何をしているの?」

「ペガサス」

 突然話しかけられたちびうさだが、優しくペガサスを呼ぶ。

「楽しそうだね」

「短冊に願い事を書いているの」

「短冊?」

 聞き慣れない言葉に困惑したペガサス。素直にちびうさに質問した。

「もうすぐ七夕って言うイベントがあるの」

「七夕?」

 又もや聞き馴染みのない言葉を耳にして、困惑するペガサス。

「そっか、ペガサスはこの世界は初めてだったね」

 ごめんなさいと誤りながら、七夕伝説の話を語って聞かせる。ちびうさ自身も三十世紀では七夕等というイベントは無く、先程笹の葉を見たときに育子ママに質問していた。

 その受け売りをそのままペガサスに伝えた形だ。

 織姫と彦星が年に一度会うことを記念し、短冊に願い事を書いて吊るす。それを聞いた夢世界を守るペガサスは、心が踊った。

「この世界には、そんな素敵なイベントが年に一度あるんだね」

「素敵だよね。私が住んでいたところでは無かったから、残念」

 未来から来たちびうさは、今の世界と根本的に違うことを肌で感じて残念に思っていた。

 勿論、イベント自体はまだあったかも知れない。しかし、一国のプリンセスとして産まれたちびうさは、普通の人生とは乖離した世界に住んでいた。

 過去に来て初めての七夕。ちびうさは、是非楽しみたいと意気込んでいた。

 そしてここにも同じく乖離した世界に住んでいたペガサスも同じだった。

「帰り道にも笹の葉が色んな所で飾られていたんだよ」

「へえー、僕も見てみたいな……」

「じゃあ、今から見に行く?」

「でも、君のお願い事が……」

「大丈夫だよ♪気にしないで。いつでも書けるもん」

 善は急げと言わんばかりに思い立ったら即行動にするちびうさ。ペガサスがいるスタリオンレーヴを手に取り、かごバッグに忍ばせる。

「行ってきまーす」

「余り遅くなっちゃ、ダメよ」

「はーい」

 育子ママに出掛ける挨拶をして玄関を出る。

 外に出ると、持っていたかごバッグを少し開けて、街の様子をペガサスにも見えるようにしてあげる。

「ペガサス、見える?」

「ありがとう」

 隙間から姿を現し、外の様子を見るペガサス。

「これは?」

「これが笹の葉で、吊るされているのが願い事が書かれた短冊だよ」

 初めて笹の葉や短冊を見るペガサスにちびうさは丁寧に教えてあげる。

「これが……」

「何て書いてあるんだろう?」

 盗み見て読み上げようとするちびうさ。

「勝手に見ちゃ、悪いよ」

「あ、そっか!火川神社の絵馬とか、うさぎ達の行動のせいでダメなこと麻痺してた。ごめんなさい」

「いや、僕は大丈夫だけど」

 ペガサスだってこの世界の人々の願い事には興味がある。見たい。でも、やはり勝手に見るのは憚られた。

 しかし、盗み見る事に抵抗がある。

「じゃあ、他も見てみよ? 移動するよ?」

 笹の葉に吊るされた短冊を見て回るちびうさとペガサスのデートがささやかながら始まった。

 街の中にある短冊を遠目で確認するペガサス。

 美しい夢を持つ人はちびうさただ一人だけ。だから自身はその美しい夢の光に導かれてちびうさの元に命からがら逃げて、助けを求めてやって来た。

 しかし、こうして短冊に書かれた願い事を見ると、この世界の住人も夢を捨てていない。まだまだ捨てたもんじゃないとホッと安心した。

 この世界にまだまだ希望を持ってもいいのだろうかと前向きな気持ちが芽生え始めた。それはやはりちびうさという少女に出会ったから。見つけてくれたからだろう。

「僕を見つけてくれて、ありがとう」

「え? 何か言った?」

「ううん、何も」

 ペガサスの独り言でボソリと囁く様な小さな声は、ちびうさには届かなかった。

 その日の夜。ちびうさは机に向かい、また短冊と向かいあっていた。その様子をペガサスは微笑ましく見ていた。

“立派なレディになれますように”

“この世界の人達の夢が、色褪せずいつまでも輝いていますように”

 ペガサスとちびうさの本当の夢と願いをお互いに知るまではまだ先のこと。

おわり