デートしようか?





「やっぱりすっごい人集りですねぇ、まこと先輩」
「ああ、そうだな」

遂にこの日が来てしまった。誘った事に後悔はしていないけど、罪悪感は持ち合わせていて申し訳ない気持ちに苛まれていた。
デッドムーンサーカスに四人で偵察に来た時、美奈と二人でこう言うところは彼氏と来たいと盛り上がった。
でも実際は彼氏なんていない。虚しい願望だった。それにデッドムーンサーカスは敵地。浮かれてなんかいられない。
だけど、女の子だもん。男の子と行きたい!
そう思っていたら美奈から飛んでもない提案が。

「まこちゃんにはあの子がいるじゃん!」
「あの子って?」
「ええ~、惚けるのぉ?」
「だから、だれ?」
「浅沼くんよ!」

左目を閉じてウインクをしながら笑顔で美奈はそう答えた。

「浅沼ちゃん?」
「そ!浅沼くん!」
「でも、浅沼ちゃんは恋人でも何でも無いよ」
「まこちゃんがそう思ってなくても、有難く利用すればいいのよ」

その美奈の提案に、悪いと思いながらも欲には勝てず私は浅沼ちゃんを誘ってここ、デッド・ムーンの敵地へと来ていた。
美奈が言っていたとおり、誘えば喜んで快諾してくれた。なんていい子。
いい子過ぎて利用しているのが申し訳ない。

浅沼ちゃんの言う通り、二回目のここもあの時と同じで人集り。賑わっている。
当然だ。表向きはただのサーカス団。そこに加え、遊園地にもなっていて遊ぶには申し分無い施設。子供を連れた家族やカップル、老若男女が楽しめ様になっているし、実際楽しんでいる。
私も、彼等みたいに単純に楽しめたら良かったのに。

「本当、どこもかしこも人だらけだよなぁ……」
「俺、サーカスとか初めてで楽しみです!まこと先輩は?」

浅沼ちゃんと並んでサーカス団の中をどこに向かうともなく歩いている。
横目でチラッと見ると少し背が高くなっている様だ。半年近く会っていないと、男の子って成長が早いんだな。なんてどうでもいい事を考えていた。

「あ、ああ」

浅沼ちゃんは楽しそうでいいな。
ここにいる私以外の人はみんな楽しいんだろう。羨ましい。せっかく男の子と来ているというのに。全然楽しめない。
いや、今日は敵の事を忘れて楽しもう!

「ねね、浅沼ちゃん、あれ乗ろ!」

頭を切りかえて浅沼ちゃんの手を取り、空いていた乗り物を見つけて乗った。
その後も、色々ハシゴして楽しんだ。
浅沼ちゃんは文句一つ言わず、付き合ってくれた。いや、本当にいい子。
そして、最後にメインのサーカスだ。

「うわぁ~、すっげー」

サーカスを見た浅沼ちゃんは感嘆の声を漏らして楽しんでいる。
その様子を見ていた私も思わずクスッと笑顔で声を出した。
本当、何回みてもここのサーカスは凄い。敵ながら身体能力が優れている。コイツらと近い未来に対峙しないといけないと思うと、厄介だと思う。

「浅沼ちゃん、今日はありがとう。楽しかったよ」
「いえ、こちらこそ楽しかったです。また誘って下さい!」
「いいの?迷惑じゃない?」
「迷惑だなんて。俺、昨年は衛先輩と遊園地行ってるんで」

そう言えば衛、ちびうさ達を連れてムゲン・C・パークに行ってたな。その時浅沼ちゃんも誘ったのか。
衛、本当に浅沼ちゃんを可愛がってんだな。

「そっか」
「そう言えば衛先輩、体調崩してて毎日顔出てるんですが大丈夫なんですかね?」
「病院で見てもらってるから大丈夫だと思うけど、心配だな」

本当は浅沼ちゃんも衛が心配でここでこうして楽しむ気分では無かったかもしれないと思った。申し分無い事をしたな。

「私もちょくちょくご飯届けに行ってるけどな」
「そうだったんですね」
「ああ、頼って悪いけど、これからも衛の事を頼むよ。私はうさぎの手前、そうしょっちゅうは行けないから」
「ええ、任せて下さい。いつでも頼って下さいね、まこと先輩!」

浅沼ちゃんはただの一般人だ。
たまたま衛を慕っていて、私にも懐いてくれている。ただそれだけで、こんなに頼り利用してしまっていいのだろうか。
彼は優しくていい子だ。きっと喜んで巻き込まれてくれるし頼られるだろう。
だけど頼りすぎは良くない。そう思いながら頼られて嬉しそうな浅沼ちゃんを見ながら今日のデートは滞りなく終了した。

「ああ、頼りにしているよ、浅沼ちゃん!」

これ以上は浅沼ちゃんを巻き込んじゃいけない!
アイツさえ、アイツらさえ衛の傍にいたならこんなに悩んだり罪悪感に囚われないのに。
四天王、ネフライト……会いたいよ。
お前と、囁かな幸せってのを一緒に共有したかった。一緒に衛とうさぎを守りたかった。ここに、デートに来たかったな。
なんて叶わない願いを抱きながら帰路に着いた。




おわり