日曜の陽気な朝、目覚めると身体が鉛のように重く、節々がとても痛い事に気づき、もしかして?と思い右手をおデコに当てるととても熱い。熱がある。絶望である。

これは、もしかしなくても風邪を引いて熱が出たらしい。

心当たりはとてもある。前日の美奈子との突然始まった本気の雪合戦だ。白熱しすぎて2時間近く寒空の中戦った。身体を動かしたから温まったが、下にヒートテックを来ていた為、熱が外に出ず逆に汗で濡れて寒くなり引いてしまったのだろうと思う。

一応風呂に入って暖まったし、着替えもした。完璧な健康管理をしたと自負しているが、引いてしまったようで自己嫌悪に陥る。

動くのもままならず、飲み食いも出来そうもない。幸い携帯がベッドに置いていた為、命拾いをして安堵する。

衛か他の奴らに来てもらい、看病してもらおうと思い立つが、衛はうさぎさんと会うと言っていたことをシンドい頭で思い出し、ならばと思い和永に来てもらおうと電話をかける。

「もしもし?珍しいな、リーダー!」

自分とは裏腹にテンション高く電話に出た和永にイライラしつつも要件を伝えるに至った。

「ゴホッゴホッお前今どこで何してる?」

「ん?通常通り火川神社でバイトだけど?咳して、もしかして風邪?」

「あぁ、熱が出てる。看病しに来てくれ」

「は?バイトだし無理!」

「リーダー命令だ!キャンセルして来て欲しい」

「あー、レイに相談してみるわ。じゃあな」

前向きに検討している感じの返答に一先ずホッとして電話を切った。

ホッとした瞬間、熱でシンドい眠気に襲われ、そのまま意識を失った。

どれくらい寝ただろうか?

玄関の方から人が来た気配で意識を取り戻した。

漸く和永が来たのかと思っていたが、入ってきて顔を出してきたのは何と美奈子だった。

今最も来て欲しくない最悪の人物の登場に衝撃を受ける。いや、弱ってる姿を見られたくないなどと言う決してかっこいい理由ではなく、単純に家事が苦手な彼女に看病される事がどういう結末になるかがとても心配なだけだ。

予想だにしてなかった人物の登場に混乱と戸惑いが隠せず、シンドく朦朧とした頭でかけた電話は和永の方が夢で間違えて美奈子に電話をかけてしまったのかと激しく動揺する。

「起きてたのね?レイちゃんから電話が来て公斗が高熱で倒れて助けを求めてるって」

「…」

「本当に大丈夫?昨日はあんなに元気に雪合戦してたのに、あの後一体何があったの?」

電話をした相手は和永で間違いなかったが、和永がレイさんに相談して美奈子に連携されてしまったという最悪の事態になってしまったようだ。

思えば美奈子はうさぎさん命ではあるが、それを差し置いてレイさんとが1番仲が良かったと言う事実を忘れていた。いや、高熱で思いつきもしなかった。自分の選択間違いに激しく後悔した。

否、どのルートを選択しても美奈子を送り込んで来ただろう。セーラー戦士の謎の絆に頭を抱える。

雪合戦と美奈子に貰ったヒートテックが原因で風邪を引いたとは言えず、せっかく看病に来てくれたのだからとシンドいのもあり、何も答えなかった。

「声も出せないなんて、本当に弱ってるみたいね?珍しい。任せて!私が献身的に看病してあげるから♪準備してくるから待ってて」

滅多に見られない弱ってる俺を見たからか、心做しか楽しそうに見える上にとても張り切っている。準備って何だ?…嫌な予感が胸を過る。

寝室から出ていく美奈子を不安な顔で見送った。

(三日月パワートランスフォーム!出来る看護師に変身!)

廊下から何か聞こえて来て不安はより大きなものに膨らんでいき、風邪のせいで幻聴でも聞こえてきているのかもしれないと現実逃避する公斗だったが…。

「お待たせ~♪どう?私の白衣の天使姿は?」

「…勘弁してくれ」

「セーラーV時代のコンパクト使って看護師になってみたの。これで俄然気合い入って完璧な看病が出来るってもんよ!やって欲しいことがあればなんでも言ってね?」

看病出来ることが相当嬉しいのか、かなり張り切っている様子だが、空回りしてとんでもない事にならなきゃ良いが…。

「熱は測ったの?」

「いや、違う部屋にあるから取れなくてな」

「何処にあるの?取って来るわ」

「隣の部屋の二段目の引き出しだ」

「了解!」

何事も無くここに戻ってきてくれればいいが…と朦朧としながら祈るが…

ドンッ!!!

……そうは問屋が卸さないのが美奈子か?はぁー(深いため息)

概ね引き出しを落としたと言ったところか?

「お待たせ!中々見つからなくて。はい、測って」

「ん、サンキュー」

「そうだ!一応解熱鎮痛剤買ってきたのよ。飲むでしょ?」

美奈子にしては気が利く。(失礼極まりない)

医大志望の亜美ちゃんからアドバイスでも貰ったのかもしれない。

「薬飲むなら何か食べないとでしょ?だから食べ物も買ってきたの」

テキパキとコンビニの買い物袋から食べ物を出していく。

「熱があるって聞いたから冷たくて食べやすいのがいいかな?って思ってヨーグルトにゼリー。甘いのが苦手だからゼリーも柑橘系ピックアップして買ってきたわよ」

ピピピッピピピッ

得意げに買ってきた物を説明していると測っていた体温計がなった。

「どれどれ?…て、38度5分?思ってる以上にあるわね?薬買ってきて正解ね。その前に何か食べないとダメよね?」

買ってきたゼリーを手に取り、パッケージを開けるとスプーンで掬って「はい、あーん♪」と口まで持ってきた。普段なら食べさせてもらうなんて行為、恥ずかしくて絶対に受け入れないし、お断りだが、高熱で動かす度身体の節々が悲鳴をあげるため、

素直に受ける事にした。

「ん、冷たくて上手い」

「珍しく素直ね?よっぽどシンドいのね?ゼリー、全部食べられそう?」

コクリと頷くと、タイミングを見つつ適量を口に運んで食べさせてくれた。

朝から何も口にしておらず、高熱で口が熱かった為、スッキリして完食した。

「じゃあ次はお薬ね?台所借りるわよ。水は買ってないから」

そう言って台所に行く美奈子をまた何かをやらかすのでは無いかと不安になりながら待つ事になった。

ガチャン、ガチャン、ガッシャーン

「きゃぁ~やだぁ…」

「…」

水をくみに行っただけのはずなのに、何がどうなったか食器が割れたと思しきる音が聞こえ、直後、美奈子の叫び声が響き渡った。…勘弁してくれ。余計頭痛くなるし、熱が上がりそうだ。

先程、看護師姿で献身的にテキパキとコイツマジで美奈子か?と疑う程完璧に看病していたと思えばこれだ。やはり美奈子は美奈子だった。

取り敢えずもう何もせず水だけ汲んで戻ってきていただきたい。色んな意味で。

「やっちゃった~てへぺろ」

騒がしくした後戻ってきたかと思えば、その手に肝心のコップは握られておらず、両手はがら空き。…何故戻ってきた?と言うか、何しに行って、何をやらかした?

万遍の笑みが天使の様な悪魔の笑顔に見えて仕方が無い。高熱と笑顔に身体の震えが止まらない。

「み、水…水を…くれ…ゴホッ」

「アッお皿を割っちゃってすっかり忘れてたわ!いけないいけない!美奈子のうっかりさん」

どうしたら目的をすっかり忘れられるのか是非知りたいものである。余計に熱が上がり悪化そうだ。

もう一度台所に行き、今度こそ水を汲む音が聞こえてきて心底ホッとする。これで戻って来る時また持ってなかったら本物のアホ確定だ。そうならない事を祈る。

「お股~♪今度こそ水持ってきたわよ!」

戻ってきた美奈子は右手にコップを持ち、左手をピースしてウインクして何故か得意気に威張っている。1度目で出来て当たり前なのに…。

「じゃあ薬飲みましょうか?」

箱から薬を出して飲ませてくれる。

これでやっと落ち着けると思うとホッとして気が抜け、気を失う様に眠りについた。

どれだけの時間寝てしまっていたのだろうか?

目を覚ますとおでこにはいつの間にかゼリーと一緒に買ってきたであろう冷えピタが貼ってあり、冷たくて気持ちいい。そして周りを見るとナース姿のままの美奈子が傍で寝ていた。

寝ている時にも何か色々しなくてもいいのに慣れないことをして疲れて、ホッとして寝てしまったんだろう。

解熱鎮痛剤を飲んだお陰だろうか?それともたっぷり寝たお陰だろうか?身体の痛さがマシになっていた。熱も冷えピタのお陰で下がっていそうで楽になったように思う。

起きた俺の気配に気づいたのか、美奈子も目を覚ました。

「んんぅ~ん、いつの間にか寝ちゃってたのね?公斗も起きたのね?体調はどう?」

「お前の看病と薬とよく寝たからか大丈夫マシになった。ありがとう」

「そっか、良かった!寝てる間も苦しそうにしてたから、心配したのよ?」

そう言う美奈子の顔は本当に心配そうにしていて、申し訳なく思った。

時計を見ると17時をとっくに過ぎており、外は暗くなっていた。

「また薬飲むでしょ?寝てる間にお粥作っておいたんだけど、食べる?」

「…ああ」

やはり寝てる間に色々していた。飯不味彼女が作るお粥に一体どんな味がするのかと出来れば回避したいところだが、せっかく作ってくれたし薬も飲まないと良くならないから観念して食べることにした。…頼む!多くは望まん!普通に食べられる仕上がりであってくれ!と心の中でかなり大きく願った。

台所からお粥を笑顔で持ってくる美奈子に不安を覚え、再度普通のお粥であってほしいと強く願う。

「はい、あーん♪」

今度はレンゲにお粥を掬い、再度口まで持ってきた。

自分で食べるか迷いに迷ったが、熱が下がり、身体の痛さがマシになったとは言えまだまだシンドい。でもお粥は不味い可能性が高い。葛藤した末、決死の思いで食べさせてもらう事に決めた。

「ウッゴホッゴホッゴホッゴホッ」

一口食べた瞬間、とても食べられたもんじゃなくて吐き出してしまった。

いくら風邪で具合が悪く口の中が鈍感になっているからと言っても流石にアウトである。正直言って食えたもんじゃないし、何なら不味い。

どうしたらこんな不味いお粥が作れるのか逆に知りたい。

相変わらず不味い料理を作らせたら宇宙一だ。

「きゃぁぁぁ、大丈夫?入れすぎちゃった?」

この場合の美奈子の“入れすぎ”は口の中にお粥をと言う事だろうが、こちとら塩辛過ぎて塩入れすぎて不味いが極まって吐き出したんだが、きっと分かっていないだろう。

「…やらかしてるぞ。食ってみろ!」

「どれどれ……ウッかっらぁぁ~~~い!塩入れすぎちゃったみたい。もう美奈子ったら塩がない子ねぇ~てへぺろ」

「…味見は?」

「…し忘れてました。ゴメンなさい!」

予想通りの美奈子の言葉にどっと疲れてしまい、また熱が上がってきて朦朧とし、そのまま意識を失うように眠りについた。

それからまた暫く眠り続け、目を開けたら流石に美奈子は帰っていないだろうと思っていたが…。

目を覚ました俺を心配そうな顔で覗き込む美奈子の顔が真っ先に飛び込んできて、柄にも無くホッと安心した。

冷えピタを変えてくれたらしく、気持ちよかった。

どこかへ行こうと立った美奈子の手を咄嗟に取った。

「行くな!傍にいてくれ。どこにも行くな!」

「行かないわよ?まだいるから安心して」

風邪でしんどいお陰でとんでもない事を嘴ってしまったが、朦朧としているからもしかしたら夢を見ているのかもしれない。いや、そう言う事にしておきたかったし、しておこうと思い、もう一度そのまま寝てしまった。

次に起きた時にはもう朝を迎えていて、流石に美奈子の姿は無く、その代わりにメモが置かれていた。

“美奈子はそろそろ帰ります。冷えピタも薬も置いておくのでまだ熱有れば使ってね♪お粥もあれから味見しながら作り直したので、良ければ食べて早く元気に憎まれ口叩ける様になってね!熱で普段言わない事口走ってたからよっぽどシンドくて参ってたんだなって心配になったけど、あの時の「どこにも行くな!そばにいろ!」は美奈子の一生の宝物になりました♪お大事にネ!By 白衣の天使の美奈子より”

やはりあの時の言は夢では無かったことに美奈子の手紙に落胆する。

しかし、お陰で完治とまでは行かないまでも、すっかり良くなった俺は、美奈子にお礼の電話を入れた。

「美奈子、昨日はありがとう」

「良いって!彼氏が風邪で寝込んでるんだもん!看病出来て良かったわ。熱は下がった?」

「ああ、お陰で大分良くなった」

「リフレッシュ出来た?」

「…俺は意地でもリフレッシュ等とは言わん!」

「何それ、頑固ねぇ~アハハハ」

美奈子との会話を終え、昨日何をやらかしたのか部屋を見て回ると、お気に入りの皿を含む食器類数点が割れていた。

流石のやらかし具合にまた熱が上がる思いだった。




おわり