あの世での再会




「……ナス?」


誰……私の名前を呼ぶのは?

優しくて深い。それでいて低い声。

アルテミスとは違う。落ち着いた声。

この声を、私は知っているわ。

随分と昔から、この声の主に恋い焦がれていた。


「……クン、ツァイ……ト?」


地面に倒れていた私を跪いて、心配そうな顔で覗き込んでいた。

一体、どう言うこと?

クンツァイトは死んだはず。私が殺したのだから、よく覚えているわ。

頭が混乱する。

何が、起きているの?

何が、起こっているの?


「な、ぜ……ここに?」

「それはこちらの台詞だ!」


混乱の中、やっとの思いで言葉を発する。

でも、クンツァイトも何が起きているのか分からないようで、答えは返ってこなかった。


「ヴィーナス、何故お前がこんなところにいるんだ。ここは、死後の世界だ」


クンツァイトの言葉にハッとなる。

霞んでいた記憶が、徐々に晴れて行くような感覚がする。

やっぱり、クンツァイトは死んでいて、この姿は亡霊って奴だ。

そのクンツァイトがハッキリと見えて、対等に喋れている。これの意味するところ、それはーー


「私、死んじゃった……の?」

「の、様だな」


そっか。死んでしまったのか、私。

そうだったわね。確か、セーラー戦士と名乗る漆黒の翼を持つ敵が、セーラーマーズを捕らえたから、戦おうとしていて。

でも、動いたら殺るって言われて手も足も出なくて。打開策すら見出せ無いままセーラームーンを呼んでいた。

助かった!と思っていたけれど……。


「そっか、私もクリスタル抜かれてしまったんだ」


その事実を口にした事で、悔しくて不甲斐なくて、泣きそうになって来た。


「う、うさぎ……くっ」

「ヴィーナス……」


うさぎを置いてきた事に、悔しくて涙が頬を伝う。それをクンツァイトが、右手の人差し指でソッと拭ってくれた。

こんな時に優しくされたら……


「お前の気持ちは、痛い程分かる」

「クンツァイト……」


そうだ。コイツは二度も主を裏切った。

石になって、主の元にずっといたんだっけ?つまりは、私の先輩ってわけね。

でも、クンツァイト達と私たちは違う!

私たちは裏切って死んだりしていない!


「そのクリスタルは、何処にあるんだ?」

「敵の手にあるはず」

「そうか。プリンセスが持っているなら希望はあるが……」


手元に無いなら望みは薄いな。と言わんばかりの言葉に、文字通りガッカリして落ち込む。


「だから、先にクリスタルを奪われたマーキュリーとジュピターを助けに行ってクリスタルを取り戻そうとマーズと誓った矢先だった。なのに……」


死んでしまうなんて。

悔しくて、言葉にならない。


「うさぎ……」


最後まで、うさぎを守る事が出来なかった。

うさぎ、ごめんね。

今頃、一人で寂しくて泣いているよね?

どうか、無事で生きていて……!


「ヴィーナス、お前はここにいてはいけない!」

「どう言う事?」

「誰よりも責任感のある戦士だ。そんなセーラーヴィーナスを、尊敬していた。こんな所でメソメソと考えているなど、君には似合わない」


クンツァイトにそう鼓舞されてハッとなった。

そうだわ。私はプリンセスを守る四守護神のリーダー。誰より責任感の強い戦士。

こんな所で、こんな事をしている場合じゃあないわ!


「うさぎを、セーラームーンを、プリンセスを助けなきゃ!」


気合いを入れて、その場を立ち上がる!


「それでこそ、俺が認めたセーラーヴィーナスだ」

「ありがとう、クンツァイト。目が覚めたわ」


こんな所でクンツァイトと馴れ合っているなんて、私らしくなんかない。

感傷に浸っている暇も無い!

まだ戦いは終わっていないのよ!


「ああ、ヴィーナス。会えて嬉しかった。マスターとプリンセスを宜しく頼む」

「ええ、私は会えたのは複雑だったけど、兎に角よかったわ。これからも強く戦って行ける!さよなら」


右手を差し出す。すると、察したクンツァイトも差し出して来た。その手を握る。熱い握手を交わす。

初めて握ったクンツァイトの手は、温かくて大きくて分厚くって。不安を全て包んでくれるような、そんな安心感があった。

もうこの手を掴まえて、握ることもないのね。


そう、私は戦士!プリンセスに純潔を誓って、うさぎの為に生きるって決めたの。

男なんかお呼びじゃないんだから!





おわり