月を見つめる



『月を見つめる』



「まもちゃん、月が綺麗だね♪」


月見団子とススキを持って学校帰りに俺の家に来たうさは、一目散にベランダへと向かった。

かつて今よりもずっと長い時間過ごした前世の故郷を見上げ、うっとりとしていた。


「ああ、そうだな」

「って、さっきから全然月見てないじゃない!私の事ばっか見て……」


そう、俺は月を見ず、うさをずっと見つめていた。


「見てるよ、月」

「見てないよ?私は月じゃないもん!」

「月だよ。俺にとっては紛れもなく」


うさは何を言ってるのか分からないと言った様子だった。


「月のお姫様の生まれ変わりで、正義の戦士セーラームーンだ」

「なるほど~確かにそうだ!まもちゃん、上手いこと言う♪」

「お褒めいただき光栄。だから俺はうさをずっと見つめてるんだ。うさ以外は見なくていい」

「まもちゃん♪」


照れて頬を赤らめるうさは本当にとても綺麗で。

可愛い子は目に入れても痛くないとは言うけど、俺にとってのうさがそれだった。

本当に目の中に入れて閉じ込めておきたい。閉じ込められたらと思う。

今宵は満月。中秋の名月と言う特別な満月。

日本全国でみんなが月を見上げて月見をする。

それを止めることは出来ない。止める権利もない。

だったら、せめて俺の隣にいる月の女神だけは。今だけは、俺だけが独占して見ていたい。そう思った。


「うさ、愛してる」


そんな一言じゃ語りきれないほどうさの事が好きで好きでたまらない。溢れるこの想いを止められない。

月が見守る中、うさと熱い口付けを交わす。


「そうだ、銀水晶!」


キスが終わると照れくさくなったのか、徐に胸に着いたブローチから銀水晶を取り出した。

月に翳している。今度は俺の方がこの行動に疑問に思った。


「何してるんだ?」

「うん、銀水晶を満月にかざして充電させてるの♪」

「何か意味あるのか?」

「あんまり意味無いかもしれないけど、月の光を吸収すると力がみなぎる気がするんだ♪まぁ気分の問題かもしれないけど、やらないよりいいかなって」

「へぇー、そんなもんか?」


そう言って月の光を浴びる銀水晶はより一層光り輝いているように見える。喜んでいるのかもしれない。

うさ自身も、一瞬前世のセレニティの姿と重なった。とても神聖な姿に見える。

月から誰かが迎えに来て、帰ってしまうのではないかと不安に駆られ、慌ててうさを抱き締める。


「うさっ」


俺を置いていかないで……。声にならない感情に支配される。

俺を、一人にしないでくれ……。


「まもちゃん、大丈夫だよ」


心の声が、不安が、うさに伝わったのか、どこにも行かないよ?ずっとここにいるよ。そう言う代わりに抱き締め返してくれた。強く、強く。

満月が優しく見守る中、俺たちは不安を振り払うかのようにずっとずっと抱き締めていた。




おわり