これが3人との別れだった。

 次の年も私は同じように芦切沢に戻ってきたが、私を待つ3人の姿はなかった。

 ダム湖化と住民立ち退きの話は私の知らないところで進められていたらしい。13年前に私が戻ってきたとき、3人はもうどこかに引っ越してしまった後だった。

 そして祖母もまた、私を待ってはいなかった。初めて芦切沢に来た時と同じように、帰った私を待っていたのは祖母の葬式だった。

 13年前、5度目の芦切沢の夏、会えると思った人は皆、私を待ってはいなかった……。そして私の里帰りはこの年が最後になった。

 もうすぐバスの時間だ。

 小学校に背を向けて、私は畦道をバス停に向かって歩き出した――――。



◇◆◇◆◇



 ない、見つからない……、どこで落としたんだろう……。

 畦道には夕暮れが迫ろうとしている。足元を探しながら畦道を歩きまわって、もうどれくらい時間が経っただろう。暗くなってしまったらあきらめるしかない。

「雪枝、雪枝……」

 遠くから名前を呼ばれた気がした。

「そこにいるのは雪枝かえ?」

 顔をあげてみると、背の曲がったおばあさんがそこにいた。私はそれが一瞬亡くなった祖母に見えた。

「あ、ダイおばあさん、こんにちは」

「おう、やっぱり雪枝だ。久しぶりじゃね。どうしたんだい、こんなところで下ばかり見て?」

「うん、ちょっと大事なものをなくしちゃって」

「おや、大事なものって、なにをなくしたんだい?」

「小さな石、見た目はただの石ころだけど端っこがきれいな紫色をしてるの。好雄くんからもらったんだけど、この辺で転んだときに落としちゃったみたい……」

「ほお、そうかえ」

 ダイばあさんはうっそりと言うと、私の隣に来て持っていた手提げを下ろした。どうしたんだろうと思って見ていると、そのままううむ――とうなりながらしゃがみこんで地面を探し始めた。

「あの、ダイおばあさん?」

「なんだい、ぼさっとして。私も一緒に探してやるよ。大事なものなんだろ、え?」

「あ、うん。でも悪いからいいよ。私、ひとりで探す」

「なに言ってんだい。暗くなったら見つけられないから早く探すんだよ。ほら」

 下を向いたままダイばあさんは言った。

「あ、ありがとう。ダイおばあさん」

「礼は見つかってからにおし」

 私は再びしゃがんで足元を探し始めた。

 ダイおばあさんってどこか岬っぽいところがあるな、かがみこんで地面を探すおばあさんを見て私は思った。



つづく