「ねえ朔司くん」
「なに?」
「えっと、あの雪だるまのぬいぐるみ、本当は朔司くんがとってくれたんでしょ?」
私の急な問いかけに、朔司は驚いた顔をした。
「どうしてそう思ったの?ぬいぐるみを渡したのは岬ちゃんでしょ?」
「そうだけど、なんか隠してるみたいに見えたから」
私にそう言われると、朔司は下を向いてなにかを考えあぐねるような仕草をした。
「へえ、よくわかったね。だけどおしかったな。ぬいぐるみをとったのはぼくでも岬ちゃんでもないんだ」
「え?じゃあ好雄くんが?」
「もう、ばれてたんじゃ仕方ないなあ。そうだよ。好雄くんがとったんだよ。雪枝ちゃんが先に行った後みんなで狙ってさ、ずいぶん苦労したけど好雄くんが一番熱心でようやくとれたんだよ」
「そうだったんだ。あとで好雄くんにお礼言わなきゃ」
「あ、それはダメ。今言ったのは内緒なんだから」
「え、でも……」
「好雄くん自分がとったのに渡すの嫌がってさ、とったのも岬ちゃんということにして全部押し付けたってわけ。なんか渡す前から照れてたもん」
そうか、岬もずいぶん照れていたけどね。帰ってきたらうんとお礼を言おう。もちろん今言ったことは内緒だから、とりに戻ってくれたことに対してだ。
「わかった、内緒ね。でも来ないねふたりとも」
もう5分は経っただろうか。ふたりが戻ってこないかと神社の方を見てみたが、暗くてよく見えない。見上げてみると、さっきまで煌々と夜道を照らしていた月が雲に覆われているのがわかった。
「なんだか雨が降りそうだね」
朔司も空を見上げながら言った。夕立が来るのだろうか。雲が来る前はそんな気配はなかったが、時折吹いてくる湿った風はさっきよりも冷たさが増して、水のにおいが混じっている気もする。朔司に言われなければわからなかったが、確かに夕立が来る前の風とにおいを感じた。
「あ、ふたりが見えた!」
「ホント?」
朔司が言ったので私も目を凝らして見ると、走っているふたりの姿が見えた。
「早いからきっと見つかったんだよ」
それを聞くと、私は立ち上がってふたりに向かって大きく手を振った。
「好雄くん、岬ちゃん、ありがとう!」
私は出せる限りの大きな声でふたりにお礼を言った。それが聞こえたのか、好雄も走りながらこっちに向かって手を振っている。
ポタリ、ポタリ……
不意に雨粒が額を打った。
来たな、そう思った時にはもう大粒の雨がざあっと激しく降り始めていた。
「雪枝、朔司、降ってきたから走れ、家まで競争だ!」
戻ってきた好雄が威勢よく言った。
「待たせたな雪枝。あったぞ雪だるま」
私は岬から差し出されたぬいぐるみを受け取った。さっきまでは悔しい、申し訳ないという気持ちでいっぱいだったけれど、今は違う。私は岬の顔を見た。本降りとなった夕立のおかげで、彼女の顔はもうびしょぬれだった。
「ありがとう岬ちゃん!どこにあったの?」
「ん?わかりやすいところだよ。いいから走るぞ!びしょぬれだ!」
岬に肩をたたかれて、私は3人に続いて走り出した。
「好雄くん!」
私は前を走る好雄に追いついた。
「ああ雪枝、よかったな見つかって」
「うん、ありがとう好雄くん」
「お礼は岬に言えよ。見つけたのも、とってきたのも岬だ」
「でも、ありがとう!」
雨足がどんどん強くなるなか、私たちは畦道を走り続けた……。
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