◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
   トピックⅠ 複数で就業している労働者の労災
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

新型コロナウイルスの影響等もあり、
副業として
複数の就業場所で勤務する労働者が増えてきています。
そのような中、複数の事業所で就業している労働者に対する
労災保険法の対象範囲について以前より見直しが行われており、
令和2年9月1日に労災にかかる法改正が行われることとなりました。
そちらの内容を確認していきます。

 


□ 法改正の背景

今までの労災保険の制度は、兼業等を行う労働者にとって
一つの事業所で働く労働者と比べた場合、不利な制度でした。
給付額が少ない、労災と認められにくい、
といったケースがあったためです。
そこで複数の事業所に勤務する労働者を保護する目的で
法改正が行われました。

 


□ 法改正の概要

今回の労災保険法の改正事項は大きく分けて
2つになります。

 

(1)複数事業労働者の保険給付額の見直し

休業した場合等の給付額が
すべての勤務先の賃金をもとに算定されます。

【以前】
事故が起きた勤務先の賃金額のみで算定
  ↓
【法改正後】
すべての勤務先の賃金を合算した賃金額で算定

 

(2)複数業務要因災害に関する保険給付の創設

すべての事業所の労働時間やストレス等の
負荷を総合的に評価して判断されます。

 

【以前】
それぞれの事業所ごとに負荷を個別に評価して
労災認定できるかどうかを判断
  ↓
【法改正後】
それぞれの事業所ごとに負荷を個別に評価して
労災認定できない場合には、
すべての事業所の負荷を総合的に評価して
労災認定できるかどうかを判断

 


□ 保険給付額の例

A社とB社で就労し、
B社で労災が発生した場合
A社での賃金額 20万円/月   B社での賃金額10万円/月

 

【以前】
労災発生のB社での賃金額 10万円で算定
  ↓
【法改正後】
A社 20万円 + B社 10万円=30万円で算定

 

以前は受給できる額が労災発生した事業所のみの賃金だったため
低額の給付しか受給できませんでしたが、
令和2年9月1日からは
複数の事業所の賃金を合算できることになったので
受給額が増えることとなります。

 


□ 複数業務が要因となって起こりうる災害

今までは
個々の事業所に当てはめて
労災かどうかの判断をしていました。
特に労働時間やストレス等によるものについてです。

 

例えば、1か月の時間外労働が
A社で60時間、B社で50時間であった
労働者が過労死した場合、今までですと、
A社とB社それぞれの労働時間を見て
労災かどうかを判断していました。

 

厚生労働省が労災認定の基準としている
時間外労働の過労死ライン

 

『発症前1か月間におおむね100時間、
または発症前2か月間ないし6か月間にわたって
1か月あたりの80時間』

 

に照らし合わせると

これまでは個々の会社について判断するので、
それぞれ60時間、50時間で

過労死ラインに届いておらず
労災が認められない可能性が高くなります。

 

このようなことから、会社単位ではなく
労働者単位で労働時間を計算することにより、
複数の事業所の労働時間やストレス等の負荷を
総合的に評価して判断することができるようになりました。

 

今回のケースですと、時間外労働が
A社 60時間 + B社 50時間=110時間
なので、「過労死ライン」を超えていると
判断されるということになります。

複数の事業所の業務上の負荷を総合的に評した結果
認定される災害を「複数業務要因災害」といいます。

 

<参考>過労死ライン 
厚労省労働基準局長通達H13.12.12基発第1063号
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11a.pdf

 


□ 複数業務要因災害に関する保険給付の創設

今回の法改正により、保険給付も追加で創設されました。

 

・複数事業労働者療養給付  ・複数事業労働者休業給付
・複数事業労働者障害給付  ・複数事業労働者遺族給付
・複数事業労働者葬祭給付  ・複数事業労働者傷病給付
・複数事業労働者介護給付

 

省令によれば、
現在の業務災害に関する給付を準用すること
とされているため、給付内容はほぼ同様と考えられます。

 

 

□ 複数業務要因災害と考えられる事案の例

厚生労働省より、
複数業務要因災害として考えられる例が公表されています。

 

【事例】
A社での時間外労働は60時間
B社での時間外労働は50時間
脳出血を発症し、療養。
労働者は「A社の業務負担が大きかったと思っているが
B社の業務もあわせて長時間労働になったことも関係していると思う」
と申述している。

 

○業務災害についての取り扱い
A社とB社の労働時間は合算されないため
「業務外」となる。

 

○複数業務要因災害としてみる場合
A社とB社の労働時間を合算すると、110時間のため
「複数業務要因災害として労災に認定」される。

 


□ 副業に関する注意点

文頭で触れたように、働き方の多様化や
新型コロナウイルスの影響により休業を余儀なくされ
副業を許可する事業所も増えてきています。
その中で、労災保険法の改正は
副業を行う労働者にとってプラスとなることでしょう。

 

その一方、副業を認めるかどうかの判断を
会社側はしなければなりません。
また副業を認めた場合であっても
いくつか注意しなければならない点があります。

 

【職務専念義務に関すること】
副業を本業終了後や、休日に行う労働者が多いため
本業の業務に支障が出る場合があります。
本業の生産性の低下や、
健康管理が難しくなることも考えられます。


また本業より副業を優先するあまり
退職してしまう可能性もあります。

あくまで本業に支障が出ないように
副業を認める必要があります。

 

【情報漏洩の可能性】
その労働者の顧客データはもちろんのこと、
労働者のスキルも含まれます。
また競合他社に情報が渡ってしまう可能性もあります。

そのため、会社の秘密情報を漏洩しないことや
会社と競合する副業は行わないこと等の
誓約書の提出を求めることも検討したほうがよいでしょう。

 

【労働時間通算の時間外労働等】
労働時間は複数の事業場において就労した場合であっても
通算しなければなりません。(労働基準法第38条)
したがって、本業と副業の労働時間を合算した時間が
その労働者の1日・1週間・1ヶ月の労働時間となります。
そして、法定の労働時間を超えた部分については
時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。

 

行政通達では、後から契約した会社が
割増賃金を支払うこととされています。
後から契約する会社は、労働者がもともと働いている会社の
労働時間を把握した上で契約することができるためです。

 

【労働時間管理、健康管理が困難】
副業を行うことで、本業プラス副業の労働時間となり
長時間労働になる可能性が高くなります。


本業の支配下以外で労働者が就労することになるため
労働時間の管理が難しくなる点も注意が必要です。
そのため、副業をしている労働者については
副業先の労働時間を申告させて、
正確な労働時間を把握しましょう。

 

その労働時間により医師による面接指導を受けたり、
場合によっては配置転換等、健康確保措置をとる必要があります。