◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
  トピックⅠ 安全配慮義務
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

会社には、労働者が
安全で健康に働ける環境を整えることが求められています。
これを「安全配慮義務」といい、
会社側に義務付けているものです。
このような環境が整っている会社は
募集採用の際によりよい人材が集まってきています。

今回は安全配慮義務について確認し、
守られなかった場合に
会社側にどのような問題が起こるのか確認していきます。


□ 安全配慮義務とは
 

会社が労働者に対し
「安全と健康を確保しつつ就業するために必要な配慮をする義務」
のことです。

現在、労働契約法に明文化されています。
労働契約法 第5条
「使用者は、労働契約に伴い、
労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ
労働できるよう、必要な配慮をするものである。」

労働契約法上には罰則についての条文はありません。
ただし、実際のところ罰則がないわけではなく
下記の民法が適用されます。

・債務不履行(民法415条)
・不法行為(民法709条)
・使用者責任(民法715条)

労働時に起こった事案に対し
会社側が安全配慮義務を講じていなければ、
これらを根拠として
労働者から損害賠償請求される場合があります。


□ 安全配慮義務を果たすための措置
 

労働安全衛生法などの法律では
会社が安全配慮義務を果たすために取るべき措置が
規定されています。

●安全衛生管理体制の整備
【常時使用する労働者に対し】
・健康診断の実施
【常時50人以上の労働者がいる事業場】
・安全衛生委員会の設置
・安全管理者、衛生管理者の選任
・産業医の選任

危険作業や建設現場などでは、
作業主任者の選任が必要となります。

健康診断は原則、年1回の受診が必要ですが
深夜業を含む有害業務に従事する者に対しては
6か月に1回の受診が必要です。

●安全衛生教育の実施
・新入社員や配置転換をした労働者に対する安全衛生研修の実施
・機械や操作手順に関する研修の実施

新入社員や配置換えをした労働者に対しては
速やかに労働衛生に関する教育を行わなければなりません。
実務の手順だけでなく、危険防止策や
万が一、事故が発生した場合の対処法の教育も必要です。

機械操作が必要な作業については
手順のほか、それらの整備や点検も含まれています。

●メンタルヘルス、ハラスメント対策の実施
・ストレスチェックの実施
・メンタルに関する相談窓口の設置
・ハラスメント対策
・健康状態等の個別面談の実施

ストレスチェックは常時50人以上の労働者がいる
事業所について義務付けられています。
最近ではメンタルヘルス不調が原因で休職する労働者も多いことから
相談窓口の設置や、専門医に意見を求めるなど
情報を活用してよりよい職場環境を作っていきましょう。

またストレスは仕事上のものではないのか、
社内でいじめやハラスメントが起きていないのか、
調査や研修会を行うことも
「安全配慮義務を果たしている」かどうかの判断の
重要なポイントになってきます。

●労働時間の管理
・適正な労働時間の管理
・長時間労働の防止

長時間労働は、労働者の健康に重大な影響を与えることから
働き方改革では、長時間労働を規制しています。
労働時間の管理は適正かつ正確に行う必要があります。
「タイムカードがある」「出勤簿をつけている」だけでは
管理している、とは言い難く
長時間労働をなくしていく対策が必要です。

・時間外労働や休日労働を許可制、認可制にする
・業務量の確認、仕事の棚卸
・必要であれば配置転換や増員

以前のように「残業すれば残業代を支払っていればよい」
という時代ではありません。
長時間労働をいかに抑制していくか対策を立て実施することで
安全配慮義務を果たしていることになります。


□ 安全配慮義務違反となる視点
会社が安全配慮義務を怠ったことで
労働者に損害が生じてしまった場合
安全配慮義務違反となります。

安全配慮義務違反となる視点は下記の通りです。
・危険な事態や被害の可能性を事前に予見できたか(予見可能性)
・予見できた可能性を回避できたか(結果回避性)

「危険な事態」というと、工場や建設現場などの
危険作業や有害物質の取り扱いをイメージすることが
多いかと思いますが、それだけでなく
長時間労働や、ストレス・パワハラ等による
メンタル不調からくる
身体への負荷なども含まれます。

これを踏まえた上で会社が陥りやすい例は以下の通りです。

(1)「過労死ライン」を超える時間外労働を行わせた場合
月100時間超えや、
2~6か月のいずれかの平均で80時間を超える、
いわゆる「過労死ライン」の時間外労働を行わせていた労働者が、
脳、心臓疾患等による死亡や自殺した場合は、
当然に予見できたとして
安全配慮義務違反と判断されるようになってきています。

(2)労働者間のハラスメント事案の場合
労働者間で生じたセクハラやパワハラも
予防や解決のための対応を何も講じないまま放置し
労働者がうつ病などを発症した場合には
会社が安全配慮義務違反に問われることになります。

安全配慮義務は一見気づきにくい点も
その範囲となるため注意が必要です。


□ 安全配慮義務の裁判事例


会社が安全配慮義務違反を問われた場合
損害賠償を負うことになります。
その事例をいくつか挙げておきます。

●陸上自衛隊事件:最高裁S50.2.25
 

この事案により、使用者側の安全配慮義務が
確立された判例です。
 

 【事件のあらまし】
陸上自衛隊員が自衛隊内の車両整備工場で車両整備中に
後退してきたトラックにひかれて死亡した。
これに対し自衛隊員の両親は、自衛隊員の服務につき
その生命に危険が生じないよう注意し、
隊員の安全管理に万全を期すべき義務を負うにもかかわらず
これを怠ったとして、
債務不履行に基づく損害賠償を求めて訴えを起こした。
 

 【判 決】
公務員(隊員)に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、
施設および器具等の設置管理または公務員が国もしくは上司の
指示のもとに遂行する公務の管理にあたって
公務員の生命および健康等を保護するよう配慮すべき義務を負う、
とした。


●電通事件:最高裁H12.3.24


この事案は、過労死自殺に会社の安全配慮義務違反を
初めて認定した事件です。
最終的に和解していますが、
その金額も1億6,800万円という高額な金額になりました。
 

 【事件のあらまし】
新入社員が慢性的な長時間労働の結果、うつ病を罹患し
入社1年5か月後に自殺した。
これに対し遺族の両親は
自殺した原因は、長時間労働を強いられた結果であるとして
会社に対し、損害賠償を求めて訴えを起こした。
 

 【判 決】
自殺した労働者の上司らは、
労働者が恒常的に長時間労働に従事していること
およびその健康状態が悪化していることを認識しながら
その負担軽減措置を取らなかったとし、
会社側の安全配慮義務違反を認定した。